キミの記憶に
俺は今の今までバスケ一筋。恋愛なんて全く興味なんてなかった。そう、なかったはずだ。
だけど今、そんな考えは彼女によってあっさりと壊されたのだ。
俺と彼女との共通点といえば、クラスが同じということだけで特別仲がいいとか、悪いとか、そういうものではなかった。
今まで喋ったのはおろか、まともな挨拶すらも交わさない、名前すら曖昧で、クラスが違えば確実に互いの存在に気づかないほどの、とてつもなく薄っぺらい関係だろう。
そんな俺たちの関係を変えたのは、ほんの些細な出来事から。
その日、俺たちは日直だった。しかし、日直の仕事は全て彼女がやってしまっている。
「俺も日直なんだからやるよ。」と言っても、
「ううん、大丈夫。好きでやってる事だから。」と言われてしまい「ああ、そうか。」としか、言いようがなくなってしまう。
これが他のクラスメートなら、いい子ぶってんなよ。なんて、笑いながら代わったのに、なぜか彼女には言えなかった。きっとそれは、彼女から放たれる雰囲気だとか、落ち着いた声音が、俺をそうさせたのだろう。なんて、柄にもなくそんな恋愛小説じみたことを考えてしまって、なんだか少し気恥ずかしくなってきた。
放課後、やはり全ての仕事を任せるわけにはいかないと思い、二人で教室に残り日誌を書くことにした。と言っても、書いているのはやはり彼女で、俺はただ何の迷いもなく書き進められていく日誌を見つめ続けることしかできない。
(字、綺麗だな…)
日誌に書かれている字は女子らしい丸文字でも、大人が書くようなつなげ字でもない、一画一画丁寧に書かれた文字だった。
最初は字を見ていただけなのに、だんだんと指が白くて爪の形も綺麗だな。とか、真面目で地味だがよく見ると顔は整っているな。とか、まつ毛長いな。とか、そんなことばかり考えていると、不意に彼女と目があった。刹那、俺の心臓がドクリと動き、しばし固まってしまった。少なくとも、今のおれの頭の中はほとんど彼女で埋まっているであろう。
「…終わったけど。」
「っあ、ああ。そうか。」
「宮地くん、部活あるでしょ?鍵は私が掛けておくから、先に行ってていいよ。」
『宮地くん』彼女の口から発せられた俺の名前は、とても柔らかく、温かかった。その瞬間、こう思った。
嗚呼、俺はコイツに惚れてしまったのか。と、同時に、放したくない、俺のものに、なんて。
「悪いな。何もかもお前に任せて。」
「全然。部活、頑張ってね。」
「ああ、ありがとう。」
そう言って俺は彼女の前髪をそっとあげ、あらわになった額に自分の唇を重ね、わざとリップ音を立てて離した。彼女はあ、やらう、など口をぱくさせながら顔を赤く染めていた。夕日のせいになんかさせない。
「じゃ、また明日。」
いまだに状況を理解していない彼女に向けてそう言葉を放った俺は、部室へと足を運んだ。
少なくともこれで彼女の中に俺という存在を焼き付けることに成功しだろう。まだ時間があるんだ、ゆっくり落としてやろうじゃないか。
ある夏のお話
(明日から楽しくなりそうだ。)
(宮地くん絶対に私の気持ちに気付いてない。)
だけど今、そんな考えは彼女によってあっさりと壊されたのだ。
俺と彼女との共通点といえば、クラスが同じということだけで特別仲がいいとか、悪いとか、そういうものではなかった。
今まで喋ったのはおろか、まともな挨拶すらも交わさない、名前すら曖昧で、クラスが違えば確実に互いの存在に気づかないほどの、とてつもなく薄っぺらい関係だろう。
そんな俺たちの関係を変えたのは、ほんの些細な出来事から。
その日、俺たちは日直だった。しかし、日直の仕事は全て彼女がやってしまっている。
「俺も日直なんだからやるよ。」と言っても、
「ううん、大丈夫。好きでやってる事だから。」と言われてしまい「ああ、そうか。」としか、言いようがなくなってしまう。
これが他のクラスメートなら、いい子ぶってんなよ。なんて、笑いながら代わったのに、なぜか彼女には言えなかった。きっとそれは、彼女から放たれる雰囲気だとか、落ち着いた声音が、俺をそうさせたのだろう。なんて、柄にもなくそんな恋愛小説じみたことを考えてしまって、なんだか少し気恥ずかしくなってきた。
放課後、やはり全ての仕事を任せるわけにはいかないと思い、二人で教室に残り日誌を書くことにした。と言っても、書いているのはやはり彼女で、俺はただ何の迷いもなく書き進められていく日誌を見つめ続けることしかできない。
(字、綺麗だな…)
日誌に書かれている字は女子らしい丸文字でも、大人が書くようなつなげ字でもない、一画一画丁寧に書かれた文字だった。
最初は字を見ていただけなのに、だんだんと指が白くて爪の形も綺麗だな。とか、真面目で地味だがよく見ると顔は整っているな。とか、まつ毛長いな。とか、そんなことばかり考えていると、不意に彼女と目があった。刹那、俺の心臓がドクリと動き、しばし固まってしまった。少なくとも、今のおれの頭の中はほとんど彼女で埋まっているであろう。
「…終わったけど。」
「っあ、ああ。そうか。」
「宮地くん、部活あるでしょ?鍵は私が掛けておくから、先に行ってていいよ。」
『宮地くん』彼女の口から発せられた俺の名前は、とても柔らかく、温かかった。その瞬間、こう思った。
嗚呼、俺はコイツに惚れてしまったのか。と、同時に、放したくない、俺のものに、なんて。
「悪いな。何もかもお前に任せて。」
「全然。部活、頑張ってね。」
「ああ、ありがとう。」
そう言って俺は彼女の前髪をそっとあげ、あらわになった額に自分の唇を重ね、わざとリップ音を立てて離した。彼女はあ、やらう、など口をぱくさせながら顔を赤く染めていた。夕日のせいになんかさせない。
「じゃ、また明日。」
いまだに状況を理解していない彼女に向けてそう言葉を放った俺は、部室へと足を運んだ。
少なくともこれで彼女の中に俺という存在を焼き付けることに成功しだろう。まだ時間があるんだ、ゆっくり落としてやろうじゃないか。
ある夏のお話
(明日から楽しくなりそうだ。)
(宮地くん絶対に私の気持ちに気付いてない。)
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