短編 | ナノ
天衣無縫


※CDのやつ

季節は冬、外は風か吹いてて寒いけど、室内は暖かい。
全国大会が終わって3年生が引退してからも、部活が厳しいのは相変わらずで、冬の寒さを感じさせてはくれない。それと同時にどんどんくたびれていく道具たち。今日は部活もないので、スポーツ店に来ている。

「あれ、坊やじゃないか。」

支払いが終わって、店を出ようとした時背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

「……幸村さん。」
「やあ。」

振り返るとそこには、神奈川にいるはずの幸村さんが立っていた。

「なんでいるんすか。」
「ちょっとね。」
「…ふーん。」

さして興味もなかったから、この事についてはあまり掘り下げなかった。話すことはないし、そろそろ引き上げようとしたとき、また幸村さんの方から話しかけてきた。

「少し、時間をくれないか?」
「………いいっすけど。」

一体何をされるのか、と思ったが、笑顔が柔らかいし、そんなに警戒しなくても大丈夫そうだ。
店を出た俺たちは、近くの公園のベンチに座りしばらく黙っていた。

「……で、なんすか。」
「………究極を求める者たち。」
「?」

いきなり何を言い出すんだこの人は。そんな俺の心情を読み取ったのか、幸村さんはクスクスと笑って、話を続けた。

「ある夏の夜、男が庭で寝転んでいると、空から天女が降ってきた。よく見ると天女の着ている服には縫い目がない。理由を尋ねると、『天人の衣はもともと針や糸で作られたものではない』という答えが返ってきた。」

古典とかに出てくる話だろうか、俺には少し難しい話に、幸村さんの意図が読めないままただ相槌を繰り返した。

「天衣無縫、完全無欠、自然な美しさ、純真で無邪気…その最上の形が、キミの天衣無縫の極みかい?」
「!」
「あの時の負けは認めよう。だけど、世の中に完全な物なんかないし、ずっと無邪気でいられるほど、甘くもない。」
「…………」
「くすっ、坊やには、難しすぎるかな。」
「そんなことないっす。」

少しムキになって言い返したが、幸村さんはまたくすりと笑って、穏やかな表情のまま話し続けた。

「ようするに、このまま楽しませてばかりはいかないよ、ということだ。キミにはキミの、俺には俺の……究極を求める者に、終わりはない。…少し、話すぎちゃったね、そろそろ行くよ。」
「バス停まで行くっす。」

それから無言のまま歩いたが、不思議と気まずさはなかった。
バス停に着くとちょうどバスが来た。でも、幸村さんは片足だけ踏み込んだ状態でこちらに振り返った。運転手が迷惑がってますよ、とはなぜか言えない雰囲気だった。

「また会えるのを、楽しみにしているよ。その時は……もちろん、わかってるだろうけどね。」
「っ!?」

一方的に喋ってバスに乗り、発車したバスを眺めながら、自分の腕をさすった。

「なんか今、背筋に薄ら寒いものが走ったけど…気のせい、だよね…」



    
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