短編 | ナノ
約束


「わたし、おおきくなったらせいちゃんのおよめさんになるの!」
「じゃあ、おとなになったらぼくとけっこんしてくれる?」
「うん!」


「なーんて会話してた頃もあったなー」
「何か言ったか。」
「なんでもないですよーだ。」
「はあ...全く、締まりのないやつだな。式の時くらいしっかりしろ。」
「はいはい。」

なんだよその言い方、まるで私がいつも締まりのないやつみたいじゃないか。失礼な。逆にお前みたいに四六時中堅いツラしてるやつなんていないよ。

「...声にでてるぞ。失礼なやつだな。締まりがないから口に出すんだ。」
「...返す言葉もございません。」
「はあ...もうじき新婦がくるぞ。」

征十郎の言葉に姿勢を正し、入場する新婦をぼうっと眺めながらちらりと視線を征十郎に移す。麗端な顔立ちに凛々しい表情。昔の面影などもうない。
私と征十郎の関係は一般的にいう再従兄弟というやつで、親戚の結婚式に呼ばれれば、必然的に征十郎に会うことになる。小学校までは仲が良かったのに、征十郎が中学受験をして帝光に行ってからはめっきり会うことがなくなった。年に数回会うけど、その度に大人っぽくなって、凛々しくなる征十郎に、私は苦手意識を持ち始めた。

(変わっちゃったなー)

「何を見ているんだ。僕の顔に何かついているのか?」
「...別に。」
「何か言いたそうだな。」
「...なにもな、わっ!」

なにもない、と言おうとしたのに、私は征十郎に腕を引かれて式を抜けた。

「ちょっと!何すんのさ!戻ろうよ征十郎!」
「お前はいつから僕に隠し事をするようになったんだ。言いたいことがあるのなら言え。」
「はあ!?何言ってんの、何もないったら!」

少し語尾がキツくなった私の返事に征十郎は少し俯き影を落とす。

「なまえは、変わったな。昔は明るかったのに、中学生になった頃からかな、僕に会ってもあまり話さなくなった。何かあったのかい?」

征十郎の言葉に、少し、いやかなりムカついた。

「変わったのは、あんたの方でしょ?」
「なまえ?」
「中学受験なんかして、どんどん大人っぽくなって、中3の頃なんて一気に人が変わった。高校も県外受験するしさ、いろんな意味で、どんどん征十郎が遠い存在になっていってる。」
「なまえ...」
「私と同い年なのに、同じところなんて一つもない!昔はいつも一緒にいたじゃない!一緒に肩を並べて歩いたじゃない!一緒に笑ってたじゃない!」
「なまえ。」
「なんで離れて行くの?なんで私よりも先を歩くの?なんで会って笑ってくれないの?」
「なまえ!」
「!?」

名前を呼ばれたと同時に、私は征十郎にきつく抱きしめられた。いつの間にか流れていた涙が征十郎の服を濡らす。抱きしめる力は強いのに、頭を撫でる手は酷く優しくて、酷く心地いい。

「俺はなまえを置いてなんかいかない。」
「うそ。」
「嘘じゃないさ。」
「じゃあ京都に行かないで。」
「...それはできない。」
「やっぱりうそじゃない。嘘つき。」
「子どもみたいにだだこねない。」
「子どもだもん。」
「もう高校生だろ。」
「まだ高校生よ。」
「屁理屈を言うな。」
「お父さんみたいなこと言わないでよ。」
「...ふっ」
「...ぷっ!」
「「ははっ!あははははっ!」」

征十郎とのやりとりがおかしくて、笑ってしまう。懐かしい空気が私たちを包んだ。

「久しぶりに征十郎と笑った。私、あの頃の征十郎が、好きだった。」
「小さい頃、結婚しようって約束していたね。」
「やめてよ、恥ずかしいから掘り起こさないで。」
「なぜ?俺は今でも、あの約束は有効だと思っているけど。」
「......変な冗談言わないで。本気にするから。」
「俺は本気だよ。」
「私たち再従兄弟なのよ?」
「再従兄弟同士の結婚は法律上妨げられていないさ。」
「まだ早いよ。」
「その返事、なまえは俺のこと好きってことでいいのかい?」
「.........ばか、愚問だよ。」

お互い顔を合わせて、また笑う。なんだ、何も変わっていないじゃないか。年相応の、ただの青年だ。
今度は手を繋いで、私たちは式に戻っていった。


(置いてかないで、か。青春ねー。)
(ちょ、お母さん見てたの!?)


    
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