短編 | ナノ
万能薬


「好きです。付き合ってください。」
「…ごめん。俺、ほかに好きな人が…」
「そ、そっか。ごめん。」

いつもの言葉。いつもの返事。そして、

「う…ひっく…」

いつもの涙。いつもの苦しみ。
こんな思いはもう嫌だ、と思っても、また誰かに恋をしてしまう。そしていつも、彼に縋ってしまう。

「…諏佐ぁ。」
「何だ、またフラれたのか。懲りねえな。」

呆れたような苦笑いをこぼした彼は、私がフラれた時、いつも励ましてくれる、私の友人。

「なんで、伝わらないんだろう。」
「うんうん。お前はよく頑張ったよ、だからもう帰ろう。な?」

そう言って頭を撫でてくれる諏佐に涙がまた溢れてくる。彼の言葉は、私の傷んだ心を癒してくれるような効果をもたらしてくれる。私がまた恋をすることができるのは、きっと彼の言葉のおかげ。だからいつも縋ってしまうのだ。

「泣くなよ。なんか奢ってやるから。」
「…ハーゲンダッ」
「俺が買える値段のもので。」
「…うん。」

これもいつもの光景。だた、何回もこんなやり取りを繰り返していくうちに、告白でフラれることにためらいを覚えなくなった。あまつさえフラれた時、苦しいのに、心の奥底で安堵してる自分がいることに気づいた。これは、きっと彼の言葉のせい。彼の、まるで治癒薬のような言葉を、私は摂取しすぎたんだ。
『どんな万能薬でも、取りすぎれば毒になる。』とよく聞くが、あれは迷信ではないようだ。最初はよく効く薬でも、摂取していくうちに病みつきになり、次第に麻薬へ変わり体中を麻痺させ、最終的には甘美な毒に姿を変え私を逃がしてはくれない。

「私の恋、実るように頑張らなくちゃ。」
「ああ、そんで疲れた時は、俺のとこに来い。いつでも慰めてやる。」
「…ありがとう。諏佐。」

今日も私は、あなたの毒に溺れてく。


(もっともっと溺れて)
(俺のものになればいい)


    
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