短編 | ナノ
気になる人


湯神くんには友達がいません。いないというより、つくらないらしいです。らしい、というのは、私が人から聞いた話なので確証はないということです。私が湯神くんを知ったきっかけは1年の頃。先生雑用を押し付けられ、大量の資料を一度で運んでしまおうと無謀なことをしていると、案の定バランスを崩し資料をまき散らしてしまった。2回に分ければと後悔しても後の祭り。沈んだ気持ちで回収していると前から足音が。顔を上げると1人の男子生徒と目があった、湯神くんだ。湯神くんは私の顔を見た後、私の横を通り過ぎて行った。

「いやいやいやっ!助けてよっ!」
「は?何で俺が赤の他人であるキミを助けなきゃいけないんだ。」
「でも今ばっちり目があったじゃない。今の私状況見たら普通助けるでしょ!?」
「キミの普通を俺に押し付けないでくれ。じゃあ俺は急いでるから、キミの普通を共有してくれる人に助けを求めるといい。」
「あっちょ…と…。」

変な屁理屈をつらつらと並べた湯神くんは足早に去って行った。
これが私と湯神くんとの、ファーストコンタクトである。
あの日から、湯神くんの噂がちょくちょく耳に入ってくるようになった。驚くことに、湯神くんは野球部のエースだとか。『協調性』の『き』の字もなさそうな彼が部活をしていることにも驚いたが、エースということに一番驚いた。エースってあのエースだよね?

「ということで、試合見にいこ!」
「どういうことだよ」
「あいたっ。」

私の突然の提案は友人によってあっさり跳ね返されてしまった。デコピン付きで。どうやら友人は興味がないらしい。おかしい、あんなに噂が耳に入ってくるのに。

「だってあの湯神くんが部活してるんだよ!?しかも団体競技!」
「だから何よ。」
「湯神くんエースなんだよ!?」
「知らないわよ!」
「てか、野球とか興味ないし、見に行ってもつまんないだけじゃん。」
「もう、みんな冷たいよ!いいもん、私一人で行く。あとで後悔しても知らないからね!」

そう言って私は駆け出した。誰一人として私のことを追いかけてこなかったのは寂しかったが、構わず帰宅した。今度の試合に、胸をときめかせながら。

私がこの気持ちに気づくのは、まだ先の話。


(なまえってほんと湯神のこと好きだよね。)
(あんな奴のどこに惚れたんだろ…)
(戻ってこいなまえ!)


    
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