今日は久ぶりのオフ。夏だからと言って家でだらだらしているのももったいないので、ナンパでもしに電車代はたいて隣町へ繰り出そうと思う。
「ここであったも何かの縁、いや運命。僕とお付き合いしてください。」
「…結構です。」
「ああ…」
また逃げられた。今日は不調だ。
「帰るかなー…って、ふぉおお!」
俺の目に留まったのはショートカットの美人。横顔でしかわからないが、肌は白く、肌とは対象の短く切られた黒髪は太陽の光を反射させキラキラと輝いている。前髪も眉毛の上で切られているが不自然ではない。すらっとしたシルエットで白いTシャツと細めのデニムがよく似合っている。メガネはかけているが瞬きするたびに見えるまつ毛は長い。一言で表すならボーイッシュだ。ちょっとでかいけど…まあ俺より小さいから良しとしよう。
「今日は暑いですね、今から近くのカフェにでも行きませ…ん、か…」
「え?」
目を瞬かせる目の前の人物は、多分、男…?黄瀬とは違ったタイプで整った顔立ちをしている。中性的と言ったところか。森山由孝一生の不覚、男性を女性と間違える、
「私、ですか?」
なんてことはなかった。彼女から聞こえるアルトは精進証明女性のそれだ。
「もちろん、その白い肌が焼けてしまうのはもったいない。」
「そ、そう…かしら?」
若干の戸惑いを見せる彼女だが、頬を軽く染めているあたり、つかみはばっちりだ。
「そうですとも、どうです?何なら奢ります。」
「ふふっ、お上手ですね。」
「本心です。」
「…じゃあ、お言葉に甘えて。」
「…はいっ!じゃあ行きましょう。」
よ…よっしゃあああああああああああああああ!え、嘘だろ!?俺初めてナンパ成功した!しかも相手美人!俺の好みは可愛い子だが結果としては上出来だ。
それからカフェへと移動し、しばらく談笑をしていた。なんと彼女は海常の生徒でしかも俺と同い年だとか。
「こんな美人なあなたが海常の、しかも同学年にいたなんて知らなかったな、いやもったいないことをした。」
「知らなかった…?いやですわ、ほぼ毎日顔を合わせてるじゃないの。寂しいこと言わないで?」
「え?」
彼女は俯きがちに言葉を並べる。やばい。なんかわかんないけどこの子やばい。焦りだす俺を無視してなお喋り続ける彼女。
「それとも、」
顔を上げた彼女は不敵微笑んでおり、あれ?この顔どっかで…
「ここまできてまだ私に気づいていないなんて言うつもりはありませんよね?森山くん。」
「……みょうじ?」
「ご名答。」
「う…」
嘘だあああああああああ!
「いやあ、面白いものを見せてもらったよ。よかったですね、初めてナンパ成功して。」
「お前のはノーカンだ!金返せ!」
「いやよ、美容室代でお金ないし、乙女の心をもてあそんだ罰よ。」
俺は乙女の定義について深く考えることになった。