よろしくお願いします
最近、女の子が目に入らなくなった。ウィンターカップも終わり、受験に向けて本腰を入れなければならないから、目に入ってはダメなのだが、日常生活の中に埋め込まれていたことがなくなると、ぽっかり穴が空いたような感覚が芽生える。

「…森山。」
「………」
「森山。」
「え、あ、ああ。」
「何ぼけっとしてんの。勉強教えろって言ったのは森山でしょ?」
「すまん。」
「…ウィンターカップのこと、まだ引きずってんの?」
「いや、確かに負けたけど、俺は俺なりに全力を出し切ったから、何も後悔はしてないさ。ちゃんと次の世代にたすきも渡した。何も心配してないよ。」

何も嘘は言ってない。心からの言葉。

「じゃあなんで?ここのところずっとボーッとしてる。話しかけても素っ気ないし、そんなに受験が心配?森山って大学どこ行くんだっけ。」
「……お前と、一緒の大学。」
「は…」

みょうじは目をまん丸にさせてこちらを見つめた。

「な、なんで…いやっ、別にいいんだけど…え!?」
「なんでだろうな……ただ、あの日から俺は…お前の近くに居たくなったんだよ。」
「……」

こんなところで、俺は何を言っているのだろう。ただ救いだったのは、図書室に人がいなかったこと。俺たちの会話は、誰にも聞かれていないことだ。
みょうじは何も言わない。だが俺は言葉を続けた。

「実はな、いつかは忘れたが、お前に手紙を渡すように女子の後輩に頼まれたんだ。その時なぜか、羨ましいって嫉妬とは違う感情で、その手紙をお前に渡したくないって思った。それで、手紙を捨ててしまったんだ。」
「なにやってんの。その子の気持ち踏みにじったってこと?少しはその子の気持ちを」
「お前はそう言うがな、俺の気持ちはどうなるんだよ!」
「っ!」

室内に俺の声が響く。遠くの方で図書委員が「静かにー」と気の抜けた声を上げたが、今の俺にはそんなもの関係なかった。

「すげー悔しいけど、俺……お前のこと好きになっちまったんだよ。」
「………え。」

言ってしまった。こんな場所で、こんなタイミングで。何やってんだ俺。

「だから、もっとお前のそばにいたいって思う。出来るなら、もっと近くで。」
「森山…」
「お前はこんな俺を……身勝手なやつだと、笑うか?」
「…………」

すっかり固まってしまったみょうじを尻目に、俺は勉強用具を片付けて立ち去ろうとした。

「……て」
「…ん?」
「待ってって言ってるの。自分の言いたいことだけ言って、逃げるの?それこそ自分勝手だよ。私の話も聞いて。」
「……分かった。」

正直、このまま見逃して欲しかった。今は、怖くて事実を受け止められないかもしれないから。

「さっき、自分勝手だと笑うかって、聞いたよね。笑っちゃうわ、私なら。」
「……」
「でも、それは私も同じだから、森山も私を笑って。」
「…え?」

みょうじは立ち上がり、俺の目の前まで来た。

「察しなさいよ。……近くに居てもいいって、言ってんの。」
「っ……!」

ああ、これは夢ではないよな。まさかみょうじがいい返事をくれるなんて。甘さの欠けた返事は、やはりみょうじらしいもので、思わず抱きしめたくなった。

「言っとくけど、私は……あんたより前から、……っす、す…………やっぱなんでもないっ!」
「は!?それはずるいぞ!俺は言ったんだからお前も言えよ!」
「無理無理無理!!森山に言うとか絶対無理!」
「言、え!」
「や、だ!」

なんだこのやり取り。だんだん恥ずかしくなってきてしまった。でも、やっぱり本人の口から聞きたい。

「じゃあ…言うまで帰さない。」
「黙れクソリア充。」
「お前もだろ…」
「……………す」
「お前ら図書室で何やってんだ。」
「!?と、図書委員!?」
「いたの!?」
「いたよ!!さっき静かにしろって言っただろ!!」
「……そんなん聞こえてこなかったよね。」
「ああ。」
「お前ら腹立つな…!」

なぜか腹を立ててしまった図書委員は扉を開け、大声で「おーい!女子どもー!」と叫んで廊下を走り出した。

「みょうじに彼氏ができたぞー!」
「「!?」」
「みんなー!号外ーー!みょうじと森山が」
「「やめろぉおおおお!!!!!」」

慌てて2人で図書委員を追いかけたが、図書室を出てすぐに女子群がわらわらと現れた。

「みょうじくん!嘘だと言って!」
「みょうじくんおめでとー!」

など、中傷的な声から祝福の声まで多数だった。あっという間にみょうじは女子に囲まれ、あいつは嬉しそうな顔をしていた。おい。
ふと目が合って、みょうじはいつもの得意げな笑みを浮かべた。

「森山くん、羨ましいですか?」
「……ああ、羨ましいよ。」

やっぱりすぐには人は変わらないか。これから徐々に、だな。






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