気づきませんか?
夏の暑さが日に日に増し、次々と更新される最高気温。この暑さだけでもイヤになるというのに、自分の肩に掛かった髪が鬱陶しくてならない。
そこで、久しぶりのオフを利用して、贔屓にしている隣町の美容室に赴こうと思い立った。

「…ちょっと切りすぎたかもしれないなあ、後悔…」

前髪を眉上にしたのは少しやりすぎたかもしれないと1人うなだれた。でも流石はプロ、ガラスに映る不自然ではない程度に切られた自分の前髪を見て、やはり贔屓にしてるだけあると沈んだ気持ちを持ち上げた。
このまま帰ってもやることはないし、ただ暑いだけだ。どこかでお茶でもして帰ろう、と思った矢先、

「今日は暑いですね、今から近くのカフェにでも行きませ…ん、か…」
「え?」

あまりにも聞き慣れた声に心臓がドクリと跳ねた。振り返った先にいたのは私のクラスメートで同じ部活仲間でもある生粋の女好き、森山由孝だった。

(コイツ…私だって気づいてない上に私のこと男だと疑っているな?)

まったく顔に出やすいやつだと呆れながらも、いつもより少し高い声で自分に話しかけているのかと問えば、

「もちろん、その白い肌が焼けてしまうのはもったいない。」

と肯定と誉め言葉が返ってきた。悪い気はしないが、よくもまあこんな台詞がポンポンと…
こんな台詞で落とせると思っているおめでたい森山にネタ晴らしをするにはまだ早い、ここは1つ乗ってやろうと思った。

「そ、そう…かしら?」

表面上戸惑っているが、内心笑いが止まらない。口角が上がらないことを願う。それにしても今日は暑い。

「そうですとも、どうです?何なら奢ります。」

森山の言葉にしめたと思い彼の提案に乗り、カフェへと足を運んだ。横目で見た森山の顔はとても嬉しそうで、おそらく初めてナンパに成功したのだろうと簡単に察しがついた。
カフェでしばらく談笑しつつ森山の様子を伺うも、森山は全く気づかない。馬鹿かコイツは…。そこで自分は海常生の3年であると告げても全く気づいた様子がない。あまつさえ「こんな美人なあなたが海常の、しかも同学年にいたなんて知らなかったな、いやもったいないことをした。」などとほざきやがる。チームメイトの顔を忘れるなど、所詮私たちの絆はその程度なのか。腹の立った私はネタ晴らしをする事にした。

「知らなかった…?いやですわ、ほぼ毎日顔を合わせてるじゃないの。寂しいこと言わないで?」

私の言葉に顔を青ざめる森山を無視して話を続ける。

「それとも、」

いつもの不敵な笑みにアルトともテノールとも取れる我ながら中性的な声音に戻し森山を見据えた。これで気づかなかったら往復ビンタをして帰ってやろう。

「ここまできてまだ私に気づいていないなんて言うつもりはありませんよね?森山くん。」
「……みょうじ?」
「ご名答。」

森山の言葉に安堵する。これで気づかれなかったら私はただのビッチみたいじゃないか。冗談じゃない。

スカッとしたところで、森山は強制連行ってことで。


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bkm
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