今日から記念日

今日は12月25日。そう、約束の日だ。まあ、行くなんて一言も言ってないし?一方的な約束だし?行かなくたっていいよね。連絡だって来てないし……とかなんとか考えてても頭の中から桃城くんは消えなくて、

「……ちゃっかり着替えてるし、髪なんかも巻いちゃって…らしくない。」

何をこんなに気合いを入れる必要があるのだ。というかなんで着替えてんの私。とくに約束も何もないのに……。約束……今は、16時30分。家から駅前の公園まで歩いて15分。

「あーーーーもう!様子を見るだけ!桃城くんだってもしかしたら来てないかもしれないし?うん、そうだよ、見に行くだけ!」

自分に言い聞かせるように言葉を並べ、ちゃっちゃと準備を終わらせて家を出た。
12月なだけあって外は暗くてとても寒い。今年はホワイトクリスマスなので道はうっすらと白く色づき慌てればこけてしまいそうになる。でも、今の私はそんなことはお構いなしに、傘もささずに走っていた。走らなくたっていいのに、冷たい空気を切るよう走った。慣れないヒールで足が痛いし、雪が顔に降りかかって凍ってしまいそう。なんで私、こんなに必死になってるの。バカみたい。でも、そんなこと思ってても、足は止まってくれなくて、ものの数分で目的地に着いてしまった。

「はぁ……はぁ……な、なんで…けほっ、」

17時までまだ時間はあるのに、桃城くんはもう待っていた。この時点ですでに鼻を赤くしてるところからすると、もう30分以上その場にいたことが見て取れる。来るかどうかも分からないのに、そんな前から待ってるだなんて……

「……バカみたい。けほっ、」

胸が苦しいのは、走ったせいなのか、防寒具を身につけていても寒そうに体を摩って待ち続けている桃城くんを見ているからなのか、はたまた別の理由か。どれにしても胸の苦しみは変わらなくて、今は息が整うまで物陰に隠れていた。
しばらく待ち続けて、ようやく17時。相も変わらず待ち続けている桃城くん。今までじっとしていた桃城くんは、ここでようやく辺りを見渡し始めた。赤くなった指先を自分の息で温め小さくなって待っている姿は、ドラマのワンシーンを見ているようで、眉間にシワが寄る。どうしよう。そう思った矢先に桃城くんに近づく人影が見えた。

「ねえ、キミ。さっきからずっとそこにいるけど、誰かと待ち合わせしてるの?」
「え?あぁ、はい。」
「待ち人って、もしかして彼女さん?」
「いえ、彼女ではないですけど…俺の、」
「ひどい女の子ね、こんな寒い中キミみたいなかっこいい子を待たせるなんて。」

おそらく大学生であろう女性と話している光景に、思わず視線が下へ行く。

「そんな子ほっといて、お姉さんとどっか行こうよ。」
「っ!?」

いわゆる逆ナンというやつに引っかかった桃城くんは、とても戸惑っている。同時に、私の胸もチクリと痛んだ。でも、仕方ない。だって、あの場所へ、彼のところへ駆け寄らなかった私が悪いのだから。仕方ない、だけど……

「嫌だ……」
「嫌っすね。」
「!?」

私のつぶやきと桃城くんの言葉が重なった。思わず顔を上げる。桃城くんはまっすぐな瞳で答えていた。

「待ち合わせの時間からまだ5分しか経ってない。何か遅れてくる理由があるのかもしれないじゃないですか。」
「クリスマスよ?こんな日に遅れてくるバカいるわけないじゃない。」
「分かりませんよ?慣れないヒールで足を痛めたのかもしれない。全力で走って息が上がってるもんだから呼吸を整えてるのかもしれない。だから俺は、あいつが来るまで待ち続けますよ。」
「っ……」
「…一途ね、じゃあ私は諦めようかしら。凍え死なないようにね。」

そう言い残して女性は去って行った。桃城くんは女性が去っていくのを見つめていた。

「そろそろ呼吸も整っただろ。こっち来いよ。」
「!?」

そう言った桃城くんはこちらを向き、来いと言ったにもかかわらず私の方へ走り出した。そのままの勢いで抱きつかれ、思わずバランスを崩す。それを桃城くんが支えてくれて、彼はそのまま話し始めた。

「来てくれねえかと思った……」
「……いるって気づいてたなら、最初から声かければいいのに…」
「バカ。自分の意思で来てほしかったんだよ。……なあ、来てくれたってことは、その……」
「私、ずっと友達の関係を続けていきたかった。」
「………」
「たまに一緒に帰って、他愛のない話で盛り上がって、そのまま卒業していくものだと思ってた。何より、この楽しい関係がなくなってしまうのが嫌だったの。桃城くんと、ずっと一緒にいたかった……って、今考えたらもう答えは出てたんだね。」
「みょうじ……」

私は桃城くんの背中に手を回し、ジャケットにシワができるくらい握りしめた。

「好きだよ、悔しいけどね。惚れちゃったよ。」
「……ほ、ほんとか!?」
「2回は言わない。」
「は、ははっ……まじかよ。はははっ!」
「…大丈夫?寒さで頭おかしくなった?」
「おせーよ、気づくのがよ。俺なんて、初めて会う前からだったってのに。」
「……ん?」

桃城くんの言葉に耳を疑う。初めて会う前?というのは、バレンタインのときだろうか。その前だとしたら…

「ねえ、あの時うずくまってたのって…」
「わざとに決まってんだろ?」
「………くせ者。」
「おう、よく言われるぜ。」
「っ…卑怯者!今までのやつ全部計算尽くだったな!?」

ぽかぽかと桃城くんの背中を叩いて彼の腕から逃れようとしたが、抵抗も虚しくさらに強く抱きしめられた。

「全部な訳あるかよ。俺だって、夏祭りの日に告白する気なんかなかったっての。」
「………」

返す言葉が見つからなくて、しばらく桃城くんに体重をかける。心臓の音が心地よい。すると突然桃城くんが口を開いた。

「なあ…………キスしたい。」
「はあ!?ヤダ。無理無理無理。」
「…そんなに拒否るなよ。傷つくだろ。」

突拍子もないことを言ってのけた桃城くんの顔は赤い。一応恥ずかしかったんだ…

「だってここ人多いし!見られちゃう!」
「…見られなきゃいいんだな?」
「いや、そういう問題でもないんだけど…」
「じゃあさ、七夕の日に行ったところ行こうぜ、あそこなら誰にも見られないし星見えてムードも良いしな!」
「え、ちょ、」

足に力を入れて動くまいと踏ん張るが、やはり運動部にはならないてない。あっさりと引き寄せられてしまった。

「その格好、俺のためにしてきてくれたんだろ?可愛いぜ。」
「〜〜〜〜!」
「さ、行くぞ!」
「あ、ちょっと!」

今のはずるい。照れないわけないよ。でも、満更でもないのは、つまりそういうことだろう。



(惚れてしまったよ桃城くん)
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