スポーツテスト
「荒井、反復横跳び何回だった?」
「50回。」
「くっっっそ!私48回!負けた〜〜〜!」
「いや、俺とじゃなくて女子と張り合えよ。」
「写真部は全員行動力のある引きこもりだから勝負にならないもん。」
「広報委員は。」
「そもそもよく思われてない。」
「お前委員会でも好かれてねえのかよ。」
「でもってなんだよ失礼な。」
「じゃあお前クラスに何人友達いんだよ。」
「0人。」
「いや俺俺!俺がいるだろ!この前も言ったけど!」

こうして荒井と話している間にも通りすがりのクラスメイトにひと睨みされた。すげえ優越感。

「そういえば。」
「ん?」
「お前今日はカメラ持ってきてないんだな。」
「うん。さすがにスポーツテストでは持ってこないよ。」
「普段の学校生活でも駄目だけどな。…そうか、じゃあ手塚部長の雄姿は撮れないってことか。」
「は?どゆこと?」
「あそこ。」

悪ガキ面した荒井が指さした先には、50m走の測定の順番待ちをしている手塚センパイがいた。

「手塚センパイが走る…だと!?」
「全力疾走の手塚部長めっちゃ速ぇよ。」
「絶対カッコイイ。」
「じゃあ俺らは握力測りに行くか。」
「あ〜手づ…」
「手塚せんぱーい!頑張ってくださーい!」
「かっこい〜」
「……ちっ」
「顔ひどいぞ。」
「あいつらの?」
「お前の。」
「やべっ」

慌てて可愛い顔を作り先程手塚センパイに甲高い声を浴びせていたクラスメイトの少し後ろに立ち、いつもより多めに息を吸った。

「手塚センパイ!」

クラスメイトの子たちよりもしっかりとした声音で凛とした発音で手塚センパイを呼んだ。先程の歓声や呼び声には見向きもしていなかった手塚センパイが私の声に気づきこちらに振り向いた。目だってがっつり合っている。どうしよう、心臓が究極に痛い。なんとか力を振り絞って手を振ると、なんと向こうも手を振ってくれて、しかも、こっちに向かって…向かって…る!?

「うそうそうそ!?待って荒井どうしよう!」
「そ、そんなこと俺に言うなよな!?」
「お前男のくせになに緊張してんだよ、ホモか。」
「部長が来たら誰だって緊張するに決まってんだろ。」
「え、私写真部の部長に全然緊張しない。」
「………」
「みょうじ、荒井。」
「はい!」
「お前らはどこまで済ませたんだ。」
「あとは握力だけっす。」
「手塚部長はあと何が残ってるんすか?」
「俺のクラスもあとは握力だけだ。一緒に向かうか?」
「え、」
「いいんすか?」
「ああ。」
「手塚!次お前の測定だぞ!」
「…そういえばまだ走っていなかったな。…すまない!今行く!…それじゃあ少し待っててくれ。」
「っす。」

少し恥ずかしそうに耳を染めた手塚センパイは駆け足で戻って行った。クラスメイトがめちゃくちゃ睨んでいる。やっべぇちょー最高…

「話してたらうっかり測定してないこと忘れちゃう手塚センパイ可愛すぎない?推せる…」
「手塚部長って恥ずかしいと耳赤くなるんだ…」
「推せる…」

私たちが呆けていると、かすかに機嫌の悪そうな声が聞こえた。むろんクラスメイトだ。

「みょうじさんってテニス部入って調子乗ってるよね。」
「荒井くんのおこぼれのくせに…」
「それ。てか荒井くんとの距離近くない?」
「わかる。うざ…」

わざと聞こえるように言っているのか否か。おそらく後者だろうな。でなければ『荒井のおこぼれ』なんて言葉は出てこない。まあ私には痛くも痒くもない、むしろもっと羨め、と言いたいほどだ。それに、まもなく手塚センパイが走るのでそれどころじゃない。

「ちっ、あいつら…」
「おい、どこ行くの。」
「あ!?あいつらのところに決まってんだろ!みょうじの悪口言いやがって、許さねえ。」
「おーおー、その気持ちは嬉しいがやめとけやめとけ。私は何とも思ってないから手塚センパイの雄姿見よ。」
「俺の気が済まねえんだよ。お前の悪口聞くと胸糞悪くてしょうがねえ。お前を悪く言うやつは誰だろうと許せねえよ。」
「………ぇ…うん、ありがとう…でも、殴り込みに行くのはやめよっか…」
「…そこまで言うなら。」
「うん…」

今、もしかしなくても恥ずかしいことを言われた気がする。本人はいたって真面目で、真剣で、テレなんて全く見当たらない。そこがまた恥ずかしいのだが、何より体中が熱くていけない。ドキドキが止まらないし息も苦しい。なんだこれ…なんだこれ!なんかいやだ!

「待たせたな。」
「え?…あ!て、手塚センパイ!?もう終わったんですか!?」
「あぁ。」
「荒井テメエ!お前のせいで手塚センパイの雄姿見逃したじゃねえか!」
「ワリィ。」
「感情がこもってねえぞ!シャッターチャンスは一度だけなのに!」
「いやお前今日カメラ持ってねえだろ。」
「ケンカはやめろ。」
「すんません。」
「お前先輩には素直だよな。俺お前のそういうトコ嫌いじゃねえよ。」
「好きって言ってくれないと嬉しくない。」
「好きでもねえ。」
「傷ついた。」
「いつまでやっている。行くぞ。」
「「っす。」」

後で荒井はボコすして、ひとまずは握力を測りに行った。言い忘れていたが、私は身体能力は高い。毎年スポーツテストではA判定だ。シャトルランは60回だし立ち幅跳びは200p跳んだ。握力だって去年は28sあった。見た目は可愛らしいが(自分で言ってくスタイル)中身はとんだゴリラである。今年の握力はおそらく30sはいっているはずだか、手塚センパイの前でゴリラを発揮するわけにはいかない。手を抜いてもA判定は確定だしここは女を見せつけるか。

「みょうじは…20sか。少し弱いな。4点だ。」
「えへへ、女の子ですから。」
「こっすいやつ…」
「だがおかしいな。」
「へ?」
「乾から聞いたのだが、確か去年は28sではなかった?」
「ギギクッ……た、体調悪いんすよ。」
「なるほど。では仕方ないな。」
「え、チョロ…」

乾センパイも後でボコすと心に誓った瞬間だった。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -