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「本当に行っちゃうんすか?」 「ああ。」 「はぁ…そうっすか…じゃあ、最後に抱擁を、」 「するわけねえだろ!」 「いった!桃城テメェちょっとは加減しろ!」 レギュラージャージをこれみよがしになびかせながら、小気味いい音を私の頭で鳴らした桃城は私を差し置いて先輩方と楽しそうに話だした。許さない… 「いやっす!私まだ入部したばっかなのにもう離れ離れなんてそんなの耐えられないっすよ!」 「みょうじ…別に今生の別れではないのだからそんなに騒ぐな。」 「……はい。じゃあ、せめて最後に写真撮らせてください。」 「みょうじ。」 「広報委員の仕事っすよ。」 「…わかった。」 たかが遠征で広報委員のネタにするわけがないが、まあイケメンの写真は撮って無駄になることはないし、写真部の方にも使える可能性も無きにしも非ず。大人しくシャッターを切り先輩方を見送った後、桃城と共にコートへ向かった。 「お前ってホント手塚部長のこと好きだよな。」 「だってあんなにカッコイイんだよ?世の女子が放っておくわけがないよね。」 「でもよぉ、あんなあからさまに好き好き言ってたらそのうち冗談だと思われて、いざマジに告白しても相手にされねえんじゃねえの?」 「は?告白?そんなもんする訳ないじゃん。」 「え、でもお前…」 「手塚部長のことは好き。でも恋愛対象としてじゃなくて、ただ純粋にカッコイイからで……って、私やーなもの見ちゃった。」 手塚部長がいかにカッコイイかを桃城に熱弁してやろうと思った刹那、コートで仮入部中の1年生に絡んでいる荒井と池田と林を見つけてしまった。昨日の部活の帰りに缶倒しで金儲けがどうのという話を耳に入れていたので、あの1年をカモにしているのであろうということは簡単に想像がついた。何であいつらはあんなにも悪ガキ気質なのか、先日大石センパイから釘を刺されていたというのに。 「あぁ、アイツら……ったくしょうがねえなぁ、いっちょ懲らしめてやるか!」 「とか言って、好感度上げて先輩風吹かしに行くんでしょ。」 「…イヤな言い方すんなよなー、可愛くねえや…つっ!」 「うわっ、めっちゃ伸びんじゃん。」 桃城が打ったボールはサービスの距離よりも長い距離を駆け抜けて缶に命中し、缶は石をばら撒きながら数メートル先へ飛んでいった。 「すげー…さすがレギュラー。」 「まあな。…か弱い1年生を苛めちゃいけねぇな、いけねぇよ。」 「も、桃城先輩!」 「桃ちゃんでいいって。」 「桃ちゃん、コートに石散らばったんだけど。片付けて。」 「げっ、なんで俺に言うんだよ。」 「荒井、池田、林。お前らもだよ。」 「はぁ?ンなもんみょうじがやればいいだろ。な、マネージャー?」 ニヤニヤしながら私の肩に手を回してきたのは荒井だった。 「…ねぇ、アンタ普通にイケメンだからこういうことすんのやめてくれる?ドキドキするんだけど?」 「半ギレで言うなよ…」 「私がどミーハーって知っててやってんでしょ、分かってんだからね。」 「でも、お前ってこういうの好きだろ。」 「女子の目線が痛くてたまらない。最高。」 「……お前ってホント正直だよな。」 呆れたように体を離し距離を取った荒井にギャラリーの女子達は安堵の表情を浮かべたのを視界に捉えた私は少し機嫌を悪くした。そこへさっきまで絡まれていた1年生のうちの1人に話しかけられた。 「ねえ、マネージャーってあんた1人だけなの?」 「え?そうだけど…なんで敬語使わないの?私先輩なんだけど。」 「ふぅん、まあ俺には関係ないけど。じゃあね、ポニーテール先輩。」 私の言葉をガン無視した1年生は帽子を深くかぶり直し、直後桃城に絡まれてコートへと向かった。 「………はぁ、惚れられちゃったか。」 「お前そういうトコあるよな。」 「だって何あの意味のわからない絡み方。絶対私に惚れてるでしょ。」 「俺お前のそういうトコ嫌いじゃねえよ。」 「好きって言ってくれないと嬉しくない。」 「好きでもねえ。」 「傷ついた。」 泣き真似をしながら桃城と帽子の1年生が無断で試合をしているコートへと向かいひたすらシャッターを押すことに専念した。スポーツ中の写真は割と撮れ高がいいのでテニス部に入って本当によかった、などと割と最低なことを考えながら、今日も私は生きていた。 |