少年I


「はぁ……はぁ……」

ウ、ウソやろ…。ありえへん。いつもより早く部室について優越感に浸っとったのに、この仕打ちはないやろ…
固唾を飲み、浅くなる呼吸を整えてから、ワシは部室のドアを思い切り開けた。

「じ、自分!こんなとこで何やってんねん!」
「うわあ!ち、違う誤解だ!」

ドアの先には女子生徒が1人、ここですでにツッコミたいが、さらにその女子の手の中には、期待の新人、若松浩輔のパンツ。

「何が誤解やねん。その手にあんのはなんや。」
「布です。」
「どう見たってパンツやろ!ワシ見とったで、さっきまで自分が若松のパンツ嗅いどったん。」
「ど、どうしてこのパンツが若松くんのだって分かるの!?エスパー!?」
「若松のロッカー開いとったら普通わかるやろ。てか自分パンツって認めたな。」
「うっ、」

あからさまにしまったと言った顔をした女子。コイツ、よう見たら諏佐と同んなじクラスのやつとちゃうか?諏佐がおもろいやつや言うて話してくれてたけど、正直興味なかったから全然話聞いてへんかったけど、鬱陶しいくらい写メ見せてきたから顔だけは覚えとる。

「こ、これは…これ…は……」
「…………」

必死に言い訳を考えとる目の前の彼女は見てて滑稽や。さらに追い詰めたろう思って口を開きかけた瞬間。

「誤解なんだ!」
「……は?」
「これは誤解なんだ!話せば分かる!」
「いや、この状況はどう考えても」
「だから誤解なんだ!落ち着いて話をしよう!」

どうも誤解で話を通そうとしてる彼女。いつまでもつか試させてもらおうやないか。

「どうやって鍵手に入れたんや?」
「誤解だ!」
「なんで若松のパンツ嗅いどったん?」
「話し合おう!」
「実は自分が若松のパンツ嗅いどったの動画に残してあるんや。」
「これはごか……え。」
「ほれ。」

ひらひらと携帯の画面を見せてやったら今以上に顔面蒼白で口をあんぐりさせていた。やばい、めっちゃ写真撮りたい。

(さて、次はどう動くんかな…)

ニヤニヤしながら待っていると、彼女はうつむいてブツブツと喋り出した。

「つは…」
「ん?なんや?聞こえへんなー。」
「盗撮は犯罪なんだよこのスケコマシー!!!!」
「うぉわ!?」

ものごっつい剣幕で襲いかかってきた彼女は携帯を取り上げることに必死になっている。パンツはしっかり握りしめているが。

「窃盗も犯罪や…!てか!そんな暴れたら…あっ!」
「ひゃあ!」

足がもつれて倒れそうになり、とっさにつかんだのがコイツで一緒に地面に激突してしまった。

「……いった…」
「ぐぅ…背中が死ぬ…」
「何やってんだ?お前ら。」

声がした方向に顔を上げると、諏佐がありえないと言った表情でこちらを見ていた。何が諏佐をあんな表情にさせたのか、分からず今の状況を整理してみる。
ワシは床に膝と手をついていて、そのしたに変態が………え。

「ぎゃあああああ!!!」
「べぶっ!!」

変態もこの状況を理解したのか、起き上がるなりワシにエルボーを食らわせ涙を浮かべていた。泣きたいんはこっちやわアホ。しかも諏佐見つけた瞬間超スピードでパンツポケットの中に入れたやろ。

「す、諏佐!えっと……さよならっ!」
「あ、おいみょうじ!」
「………」
「………」

走り去る変態を見届けた諏佐は、めっちゃ冷たい目でワシを睨んできた。
しばらく黙っとったけど、やっと発した言葉は

「こ、これは誤解なんや!」

この一言やった。

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