下心はつきもの
肩にかかる重み、首筋にかかる細い髪、視線を移した先に見えるのは無防備な恋人。
こんな状況下で、今の俺が耐えられるわけがないだろ。こうなった原因は、全てこいつにある。

テスト一週間前で部活がなくなった俺は、家で本を読んでいた。するとケータイから着信音が鳴った。読書の邪魔をされたことにいらついたので無視しようとしたが、それが電話だと気づきディスプレイを見た俺は、反射的に電話に出た。

「もしもし。」
『あ、もしもし日吉?いきなりだけどさ、お前今日暇?』
「……それを聞いてどうするつもりなんだ?荒井。」
『そう警戒すんなって!別に変なことなんか言い出しはしねえよ。』

耳元で聞こえてくる声はどこか楽しそうで、相手がどんな顔をしているのかが容易に思い浮かべられるから自然と眉間にシワがよる。内容の大体の予想はついてるので別に話を引き延ばす必要はないが、耳元に直接響く声をもう少し聞きたいと思ってしまったから、つい自嘲したくなった。

『青学はテスト一週間前でさ。ほら、氷帝もテスト近いだろ?だからさ、一緒に勉強してやってもいいかなぁ…なんて思ってよ!』
「はぁ…別に俺は一人でも勉強できるからその必要はない。じゃあな。」
『ちょ!まっ、待て待て!冗談だよ!…実は、テニス部の2年でよ、テストの点数勝負しようぜってなって…負けたくないんだよ!だから教えてくれ!頼む!』
「……ふっ」

先ほどの楽しそうな声とは打って変わり、今にも土下座をしてきそうな焦った声で俺を呼び止めた荒井。そんなことをしなくても、通話を切ったりなんかしないのに。
ついこぼれてしまった笑い声になんだよ、と不満げに言った荒井に特に誤りはせず、言葉を返した。

「いいぜ、別に。場所はもちろんお前の家だよな?」
『お、俺ん家!?やっべ全然片付けてねえよ…』
「はぁ…特別キレイにしなくてもいい。俺が行くまでにある程度片付けとけ。」
『あ、ああ。わかった!ワリィな、じゃなっ!』

一方的に電話を切られ、またため息をこぼす。教えてもらう分際で、まさか俺の家で勉強をしようとしていたとは、ほとほと呆れたやつだ。そこまで考えた後気づく。

(別に、俺の家でなんて一言も言っていないじゃないか。)

どこまでも下心丸出しの思考にまたため息が出る。恥ずかしさを紛らわすように急いで身支度を済ませ家を出た。

あいつの家に着いてからは、特に何も起こらず勉強を教えていた。
どれくらい経っただろうか、もくもくと問題集を解く荒井がこくこくと船を漕ぎ始めた。

「おい、寝るな。」
「…ねてない…」
「嘘つけ…呂律回ってないぞ。」
「んー…」

返事とは言えない唸り声をあげた荒井は、シャーペンを持ったままこちらに倒れてきた。

「おいっ…!」
「…………」
「……たくっ…」

そして冒頭に繋がるというわけだ。
だいぶ疲れていたのだろう。目の下には薄っすらと隈ができていて、指で上からなぞっても眉一つ動かしやしない。シャーペンを持つ手を解き自分の指を絡めても、起きる気配がない。少し面白くなって、唇をふにふにと触ると、いつまでたってもキスをする時は切羽詰まった様にする顔が思い浮かび、急に愛しさが込み上げてくる。気づいたときにはもうこいつに口付けていた。

「んぁ……」
「!?」

まるでタイミングを図ったように目を開けた荒井は、寝ぼけ眼でこちらを見つめた。

「お、起きたのか…」
「んー…ゎ…かし…」
「なっ!?」

こいつ…わざとか?と思えるくらい寝ぼけてる荒井は、俺の名前を呼びながら頭を首筋に擦り付けてくる。そんな姿も可愛くて、しばらく大人しく待っていると、ハッとしたように意識を覚醒させ、慌てて離れようとするがもう遅い。素早く荒井の肩を掴み、背中を痛めないよう押し倒した。

「どこでそんな煽り方覚えたんだ?」
「え、あ…ひ、日吉?」
「あれ?もう名前で呼んでくれないのか。」
「あ、あれは…寝ぼけてたからで…」
「将史、もう一回。」
「……わ、わかしっ。」

顔を真っ赤にしながら俺の名前を呼んだ荒井を見て、ついに俺の理性は崩壊した。まあ、そんなことされなくても俺はやるつもりだったが。




(若、なんかお前…すっげえつやつやしてっけど…)
(気のせいじゃないんですか?)
(荒井、隈濃くなってんぞ?そんなにテスト負けたくないのか?)
(いや…まぁ………うん。)
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