人知れずキミを想う
鮮やかな青の中に、そいつはいた。









『氷帝!氷帝!氷帝!氷帝!氷帝!氷帝!』
『青学ーファイ!オー!』

それは関東大会での出来事。ジングルス1の試合を見ている時、たまたま、本当にたまたま、青学の応援席に視線を向けた。その時俺の目に映ったのは、最前列の、レギュラージャージに紛れて試合の行方を見守っている芋ジャージの部員。
別段気にする光景でもないが、なぜか俺は、そいつから目が離せなかった。マネージャーか?と思ったが、体格からしておそらく選手。ではあいつは一体…
嗚呼、だめだ。試合に集中しないと。そう思ってコートに目線を戻すも、やはりあいつが気になってチラチラと見てしまう。真剣な眼差し。青学が点を取るとパッと笑顔になって、逆に点を取られると残念そうな、悔しそうな顔をする。コロコロ変わる表情に、口角が上がりそうになるのをぐっとこらえる。その時、そいつと目が合った。ドクリと心臓が鳴り、慌てて目を逸らすも、いかんせん心臓の音がうるさくて試合に集中できない。焦点が定まらなくて、自然とそわそわしてしまう。

「どうしたんだ日吉、上の空みたいだけど。」
「あ…滝さん。すいません。」
「…青学に、気になる選手でもいたのか?」
「っ!い、いえ。別に、えっと…あの…」
「焦ることはないだろ?青学は強豪だもんな。気になる選手の1人や2人、いてもおかしくはない。」
「は、はい…」

含み笑いをしてからコートに向き直った滝さんに、少し驚愕した。なんて勘のいい先輩なんだ。そのおかげと言ってはなんだが、落ち着きを取り戻した心拍にほっと一息ついたところで、試合は終了した。

結果として、俺たち氷帝は負けた。悔しい思いをしながら歩いていると、俺の隣に滝さんが並んで一言だけ残してもとの位置に戻って行った。その内容は、驚きを隠せないものだった。

『青学の、褐色のバンダナくん、荒井って言うんだって。日吉と同じ2年生。』

本当に勘のいい先輩だ。もしかしたら、俺にも分からないこの気持ちさえ、この人にかかればさして難しくないことなのだろう。かと言って、そうやすやすと人に頼んだりはしないがな。

「青学2年、荒井…」

俺の呟きは誰の耳にも触れることなく消えていった。と、願いたいところだ。

(今度、青学へ偵察に行こう。)

それで、あいつに会えたら、まずは名前を読んでやろう。きっと驚いて、俺を意識してくれるはず。
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