「今日は静かだね?」



放課後の生徒会室。いつもなら副会長である颯斗が一樹会長と会計の翼を窘めている光景が見られる筈なのに今日は驚く程静かだ。

また実験に集中してるのかとラボの中を覗いてもそこに人は居なくて、漸くあの二人は来ていないんだと理解した。



「翼くん、今日はお休みだそうですよ」
「翼が休み?珍しいね」
「風邪を引いてしまったみたいで。一樹会長は知りません。どうせまたどこかで寝ているんでしょう」



そう言う颯斗の顔は心なしか疲れている様にも見えた。あんな生徒会長じゃ副会長に押し掛かる負担はきっと計り知れないだろう。一樹会長はカリスマ性があって生徒に慕われているけど、普段がこんなでは褒められたものじゃない。



「颯斗の負担を減らす為にも、あの馬鹿会長探してくるよ」
「そうしてくれると有り難いです。戻ってきたら紅茶でも入れて差し上げますね」
「颯斗の紅茶美味しいから好き!じゃ、行ってくるね」



生徒会室を出てとりあえず屋上庭園に行ってみる。探すと言ってもあの人は私の倍この学園に居るから地の利は向こうにある。誰も知らない穴場的な場所を知っていてもおかしくはないし、自由奔放と言っても過言じゃない一樹会長を探すのは一苦労だ。

難しく考えれば考える程どこに居るのかわからなくなってくるが、先ずは簡単に外から見て回ろうと靴を履き替え外に出た。



「あ!名前ちゃん!」
「月子。今日は部活?」
「うん!もうすぐインターハイがあるから少しでも上手くならなきゃ」
「そっか、頑張ってね」
「ありがとう!また明日ね」



別れを告げて再び会長探しの旅に出る。月子に見なかったか聞けば良かったがあの様子じゃきっと見てないだろう。月子だったらちゃんと行くように言うと思うし、何より一樹会長は月子にサボってるところを余り見せない。

どんな見栄を張ってるんだと何度か突っ込みそうになった。暫く歩いて毎年綺麗な桜を咲かせる樹の所に差し掛かった時、青いネクタイをした銀髪を見つけた。



「こんな所に居たのか」



勿論それは一樹会長でそれはそれは気持ち良さそうに眠っている。一瞬顔に落書きでもしてやろうかと悪戯心が芽生えたが、生憎ペンは持っていなかったので諦めた。それに早く戻って颯斗の紅茶が飲みたい。



「一樹会長!起きてください!!」
「うぉあ!!なんだ?!」
「おはようございます、一樹会長」
「な、名前か…驚いたー」
「こんな所で寝てたら風邪引きますよ。さて、颯斗が待ってるく生徒会室に行きますよー」



耳元で叫ぶ事によって夢の世界から無事に帰ってきた一樹会長の腕を引っ張り、無理矢理立たせて校舎に向かう。戻れば颯斗の黒板キーキーの刑が待っていると分かってるのか、一樹会長の足取りは遅かった。



「名前」
「何ですか?」
「少し寄り道しないか?」
「しません!そんなに颯斗に怒られたくないんですか?」
「違う!翼、今日休みだろう?見舞いに行かないか」



一樹会長も翼が風邪で休んでいるのを知っていたんだと思わず感心してしまう。そういえば何で颯斗も知っていたんだろう。知ってるのは精々宇宙科の人達くらいだろうに、これも一樹会長の星詠みの力か?



「翼は勿論この学園の生徒は俺にとって大切なんだ。だから何だって知ってるし、風邪を引いてりゃ見舞いにも行く」
「…話した事のない人でもですか?」
「そこは…、ご愛嬌だ」
「説得力ないですよ。ま、翼の様子も気になるし付き合います」



説得力ないなんて言ってはいるけど一樹会長は本当にこの学園の生徒を大切にしている。星詠みで事故に遭う人を見た時も急に生徒会室を飛び出して、その人を身を呈して助けた事だってある。

未来を変えればその代償に大小関わらず自分が怪我をするのにそんな事もお構いなし。でもだからこそ尊敬出来る人だったりする。



「翼が食えそうなやつ買ってってやるか」
「そうですね。そうと決まれば購買に行きましょうか」



颯斗の紅茶はもう少しお預けになりそうだ。





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