朝起きてまずする事は携帯チェック。一年の時はコップ一杯のミネラルウォーターを飲む事から始まっていた健康的な朝。そんな日課を見事に変えてくれたのは、不良で有名(?)な七海哉太だ。起きたらメールする様に言ってあるけどそんなの来たのは数回しかない。

錫也と羊がどんな手を使っても起きなかった哉太をある日一発で起こしてしまった私は、半年前から哉太を起こす役目を負わされている。だから今もこうして夢の中に居る奴を起こしているんだ。



「哉太!いい加減起きろ!」
「ん゛ー……んだよ、…あとごふ、ん」
「五分後には絶賛夢の中でしょうが!」



容赦なく毛布を剥ぎ取ると哉太はもぞもぞと芋虫みたいに動く。このままじゃいつまで経っても起きやしないとカーテンを開け放って頬を軽く抓ってやった。これも毎朝の事。



「いだっ?!いだだだだ!!」
「どーお?お目覚めになりました?」
「おきまひた!おきたからはなひぇ!」
「よろしい」



観念したのか私に抓られて赤くなった頬を摩りながらゆっくりと起き上がる。毎日こんな事をしているのかと言われればそうでもない。哉太だって自力で起きる事が出来る日だって偶にはある。その偶に≠ヘ一ヶ月に三回か四回程度なんだけど。



「ったく…本当、名前って容赦ないよな」
「当たり前じゃない。哉太に優しくしたって意味ないもん」
「俺にもちょっとは優しさを持て!」



哉太に対して優しさを持てとか、もう少しマシな起こし方はないのかとか、ぶつくさ文句を言いながらも学校へ行く準備を始めたからもう大丈夫だろうと鞄持って玄関に出た。

男子寮に女子は原則入れない事になっているけど出席日数が既に危うい哉太の為に、星月先生を説得して寮長に一言告げていくと言う条件付きで中に入れてもらっている。寮を出る前に一度寮長の部屋に立ち寄ってお礼述べてから外に出た。



「名前!」
「なに…わっ!」
「今日もありがとな!」



そんな私の苦労を知っての事なのか、哉太はこうしてよく窓から物を投げてくる事がある。きっと労いのつもりなんだろう。お菓子だったり月子達と出掛けた時に撮った写真だったり、その時によってくれる物が異なる。

それが少しだけ楽しみだったりする私は、だから哉太を起こす役目を辞められないんだ。



「ありがと!早く制服に着替えなさいよー!」
「おー!またあとでな!」



そう言って窓を閉める。然り気無く言われたまたあとで≠ノほんの少しだけ期待している自分。学科が違うからお昼休みくらいにしか話せないけど、ああ言ったんだからきっとそれ以外にも話せる時間はあるんだろう。

いつからか面倒だった哉太を起こす朝も悪くないと思い始め、今じゃその時が一番楽しみになっている。それが恋だと言われれば今なら素直に納得できると思う。





何気ない日々が薔薇色に変わる瞬間。



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -