秋が終わって、雪が降る季節に変わろうとしている十一月。この季節になると多くの人が寒いと服を多く着込み、手をすり合わせる風景がよく見れる。

私はそんな皆を見ているのが好きだ。



「ぬぬぬ〜…寒くて死にそうだ〜」
「翼?そんな事言ってないで、仕事しなきゃ颯斗に怒られちゃうよ?」
「ぬわ〜!名前も書記と同じ事言うー!」
「だって、黒板キーキーの刑は受けたくないでしょ?」



彼、天羽翼は暖かい地方出身のせいか寒いのが苦手らしい。今だって生徒会室は暖房が効いていて暖かいのに、カタカタと小刻みに震えてる。

でも雪が降るのを楽しみにしている辺り、その寒さも満更でもなさそうだ。



「じゃあ、今やってる会計終わったら翼の好きなココア作ってあげる」
「本当か?!」
「うん。だからほら、早く終わらせなさい」
「うぬ!俺、がんばる!」



手に持っていたぬくいぬくいさん≠ニ言う作りかけのマシーンとペンチを、ペンと取り替え三枚程ある書類に真剣に取り組む翼。

彼がひどく気に入っているココアは、ただのインスタント。お湯を入れてちょっとだけ砂糖を足したら終わり。でも翼はそれを気に入っている。



「おーい、名前!!」
「あれは…一樹会長?」
「すまないがちょっと手伝ってくれないか!」
「今行きまーす!」



窓際に立って翼が一生懸命取り組んでいる姿を見ていると、外から一樹会長の声が聞こえた。

こんな寒い日に一体外で何をしているんだろう。



「ぬぬ?今の声、ぬいぬいか?」
「そう。ちょっと呼ばれたから行ってくるね」
「外寒いのに、その恰好で行くのか?」
「生憎、今日はカーディガンしか着てきてないんだ」
「なら、俺の貸してあげる!」



そう言って翼が取ってきたのは、私が使うには少し大きいと思われる赤いマフラー。新品同様で凄くふわふわしていて、付け心地が良かった。



「これで外に行っても寒くないぞ!」
「ありがとう、翼」



ニコッと笑って翼は私の頭をくしゃっと撫でた。つられる様に私も微笑みかけると、一樹会長が待つ外へ向かう。

同じく声をかけられたらしい颯斗が、玄関で待っていてくれた。二人で何をやるんだろうと話していると目の前には数人の生徒と、この季節にどこから集めたのかわからない大量の落ち葉が。



「か、一樹会長?一体何を…」
「今から焼き芋をやる!だからお前達もほら、芋包め!」
「会長、ちゃんと許可は取ってあるんでしょうね?」
「星月先生も後から来るから、心配するな」



そう言って手渡されたお芋とアルミホイル。いつだったか粟田くん達が焼き芋をしようと陽日先生に提案して、却下されたって騒いでたような。

とりあえず、アルミホイルに包んで落ち葉の山の中に埋めていく。皆とこうして集まるのもたまにはいいな。



「あ、」
「ん?どうした?」
「すみません、一樹会長。私ちょっと生徒会室に行ってきます!」



翼にはすぐ戻ると言ってきてしまったから、きっと今頃仕事を終えて私が帰ってくるのを待ってる。それに暖かいココアも入れてあげると約束した。



「翼!」
「ぬわっ!!…名前か、ビックリした〜」
「ごめんごめん。仕事終わった?」
「うぬ!完璧なのだ!」
「じゃあ、約束通りココアだね」
「わーい!名前の作るココアは甘くて好き!」



給湯室でお湯を沸かして、翼専用のマグカップにインスタントココアを入れてお湯を注ぐ。少しだけ砂糖を入れれば出来上がり。後ろでくっつく様に見ていた翼の顔は、とても嬉しそうで。

ここにはたくさんの暖かさ≠ェあって、翼もそのおかげで少しずつ変われてる。それもこれも全部、一樹会長の努力の賜物なんだろうと思った。






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