「名前?早く降りて来なさい!羊くん来てるわよ!」


いつもの朝。カーテンを開けて空を見る。今日は雲一つない青空で、卒業式にピッタリな天気。


「ごめんなさいね、羊くん」
「いえ、大丈夫です」
「本当にあの子はマイペースなんだから」


ママと羊くんが話してる。早く行かなきゃって頭ではわかってるんだけど、朝が苦手な私はいつも準備が遅い。だから−−…


「名前、まだ準備終わってないの?」
「…うん」
「まったく…手伝ってあげるから、早く制服に着替えなよ」
「ありがとう、羊くん」


こうして準備を手伝ってくれる。どうやら私は世間一般的に言われる“マイペースな人”らしく、行動も発言もおっとりしているらしい。小さい頃からそれはずっとで、周りの人はこんな私を煙たがらずに優しくしてくれた。


「荷物、とりあえずいつものだけ入れておいたから」
「ありがとう」
「準備できた?」
「うん」
「じゃあ行こう」


羊くんもその中の1人。同級生の子に虐められていた私を、羊くんはいつも助けてくれた。中学生になった今もそれは変わらなくて。


「名前は星月学園に合格したんだよね?何科だっけ」
「…神話科」
「名前神話好きだもんね。日本に行っても2年からまた一緒だけど、学科は違うって言ったよね?」
「うん、覚えてるよ」
「僕の言いたい事、わかる?」
「ん…?」


急に歩くスピードを緩めて、止まってしまった羊くん。その表情は俯いているせいかわからなくて、でも何と無く悲しい思いをしているのかなって思った。


「羊くん…?」
「星月学園って、男子校同然の場所なんだよ」
「…うん」


羊くんに歩み寄ってそっと手を握る。まだ肌寒い季節で羊くんの手はひんやりしていた。そして小さな声で話し始める。


「今みたいに同じクラスじゃないし1年間は1人だし、名前の事を守ってあげられない」
「うん」
「本当は同じ科に行って名前の側に居ようって、考えた事もあった」
「うん」
「でも、僕は天文にしか興味が持てないから…」
「…羊くん?」


こんな顔をさせているのは私なんだ。昔から、羊くんを困らせたり悲しませたりしているのは私。だから少しでも変わろうって、今は無理でもいつかはって。


「心配しなくても、大丈夫だよ…?」
「名前…」
「私は、大丈夫だから。それより、卒業式早く行かなきゃ遅刻だよ?」
「…そうだね。行こっか」





悲しみの顔には、優しさが滲む。




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