「名字さん、ちょっといい?」
「なに、東月くん。」
「ここじゃなくて…人が少ない所でいいかな?」
「え……うん。」
連れてこられたのは人通りの少ない非常階段。好きな人と二人きり。さらに相手からこんなところへの呼び出しだなんて。私だって女の子だから…期待しちゃう。
「えっと…話があってね…。」
「………うん…。」
「気づいてるとは思うけど…俺、名字さんのこと好き、なんだ。」
いやいやいや、気づかなかったから!そんな素振り一個も…って私が鈍いだけ?
「だから…その…付き合って欲しい。」
「…うん。私も東月くんが好き、です。」
「本当?」
「本当。」
「…すっごい嬉しい。」
顔を赤くして口元を押さえる東月くん。きっとその赤さは私にも伝染してる。
「キス、していい?」
「えっ!?」
「ごごごごめん!嫌だよね、急に…。」
「ちっ…違うの!ちょっとビックリしただけ…。」
「じゃあ…いいの?」
「…うん。」
深呼吸をして私との距離を詰める東月くん。私の肩を軽く掴むと『名前、好きだよ。』って言って顔を近づけてきた。
私もゆっくり目を閉じてその時を待つ………。
「そこで目が覚めた。」
「はははっ!惜しかったね!」
「笑い事じゃないよ…。」
「ちょっと気持ち悪いね、その錫也。」
昼休みの屋上庭園。親友の月ちゃんとお弁当中の私。周りには元気に走り回る男子たち。グラウンドでやれっての。さっきのはもちろん夢の話だ。私が東月くんを好きなのは、現実でもだけど。
「東月くんが私のこと好きだなんてあり得ないっか。」
「アタックしないからだよ。」
「無理だよ!緊張してちゃんと喋れないんだから!」
そう言って、私は食べ終わったお弁当箱を重ね、空に向かって溜め息を溢す。
いいもんね。見てるだけで幸せだから。まあ…そういう感じになれたらいいなとは思うけど、私にはきっと無理。
チラッと一人でなんか喋っている月ちゃんの方を見ると、お弁当箱には最後の玉子焼き。
コッソリそれに手を伸ばそうとしたとき、ドアの開く音がした。
「あ、名字さんこんな所にいた。」
「…と……うづき…くん。」
「お昼終わった?」
「…うん。」
「よかった。ちょっと…話があって。」
「…えっ、うん。」
「ここじゃなくて…人が少ない所でいいかな?」
「えっ?えっ?」
「月子、名字さん借りてくね。」
「ちょっ…東月くん?」
私の手を掴んで歩く東月くん。振り返ると月ちゃんは笑いながら私に手を振ってきた。
これって………。
そう思って頬をつねる。痛い。夢じゃない、現実だ。繋がれた手から伝わる熱も確か。
向かう先はもちろん。