「…ね、寝ぼけてたんじゃね?」
気づいたらそう言っていた。何かを考える前に、勝手に口が動いてついた嘘。なまえは俯いている。
「だよ…ね。そうだよね。ははっ、なんでもない。」
「うん…。」
「…ごめん。忘れて。」
しばらくして顔を上げたなまえ。笑ってるけど笑ってない。俺が見たいのはこんなんじゃない。
「………なんで、」
「ん?」
「なんでそんな顔すんだよ…。」
「…え……わっ。」
そんななまえの顔を見てられなくて、俺はなまえの手を引き、強引に抱きしめる。
「かな…た…く……」
「………っ。」
「…はなして?」
「やだ。」
「はなして……。」
涙声のなまえ。抵抗してくるけど、抵抗しきれていない。自分でやっといて、心臓が爆発しそうだ。
「また…そういうことする……。」
「そういうこと?」
「哉太くんがそんなんだから…もっともっと……。」
『好きになっちゃうよ。』
確かになまえはそう言った。俺に聞こえるか聞こえないかの小さな声で。
「え……。」
ああ、もう駄目だ。
「…だから……嫌い。」
何かわからないけど、体のそこから色んな物が溢れてきて。なまえの目から流れる涙のように止まらない。もうなまえしか見えない。
俺は、もうこんなにも…。
「……ごめん。」
「なに、が?」
「俺さっき嘘ついた。」
「嘘って…。」
「あの夜、本当は…。」
「………。」
「本当は…。」
否定なら無意識でも出来るのに。自分の気持ちを伝えるのがこんなに難しいなんて、知らなかった。
いつもなまえからだった。俺達が仲良くなるきっかけを作ったのも、名前で呼びあったり、タメで話したりするきっかけを作ったのも。
話を出来るのが、笑い合えるのが、隣にいるのが当たり前になってた。
でも、いま伝えないと。そして、俺が伝えないと。全てが終わってしまう気がした。
逃げるな、俺。
「好きだって言った。なまえが。」
「……………え…。」
「きっと俺はなまえが思ってるような人間じゃない。体だって弱いし、心だって弱い。今だって嘘とかついて…。でも、それでも、こんな俺でも…好きだって言ってくれる?」
「…当たり前でしょ?哉太くんがいいよ……。」
自分が変われる気がした。成長するチャンスだって思った。なまえと一緒にいれば強くなれる気がした。だから、自分の気持ちを伝えなきゃ。
「じゃあ…。」
すっかり冷えきったなまえの小さい手を握って、咳払いをひとつして、しっかりなまえの目を見て。ゆっくり息を吸い込む。
「俺はなまえが好きだ。」
「………ん…。」
「俺と付き合って下さい。」
「……うん…。」
「先に言わせてごめん…。」
「ほんとだよ…。」
溢れた涙は止まらないけど。俺は、なまえのこの笑顔が見たかった。笑ったって思ったら、さっきより好きな気持ちが溢れてきて、新年早々すっげー幸せだって思った。
「…もう暗いし、帰ろっか。」
「うん。」
「送るよ。」
「ありがと。…ねぇ。」
「ん?」
「手、繋いでてもいい?」
「う…うん。」
「ねぇ。」
「ん?」
「哉太くん、大好き!」
「ちょ!ばっ、声でけぇよ!」
「いいじゃん!どうしたの、さっきはあんなに大胆だったのに。」
「………っせ。」
この幸せがいつまでも続くように。そんなことを願いながら俺は、なまえの手を握る力を少し強くした。
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