「さっみー!」

元日の神社。こんなに人が集まっているに、こんなに寒いのか。今にも凍え死にそうなのに、賽銭箱はまだまだ遠い。

「あ、見て。月子だ。」
「ははっ。似合わねー。」

月子は神社の手伝いをするとかで、今は俺と哉太の二人。巫女の格好で働く月子を横目に、俺達はまだかまだかと行列が進むのを待っていた。

そんなときだ。

「哉太くん?」
「あっ…。」

哉太を呼ぶ声。おそらく、いま帰りのみょうじさんだった。一瞬で顔を真っ赤にする哉太。まあ、昨日の今日だ。そりゃ恥ずかしくもなるか。

「明けましておめでとう、今年もよろしくね!」

相変わらず、飾らないみょうじさん。冷気で赤くなった頬が可愛らしい。

俺は二人との距離を少し広げる。いくら哉太からみょうじさんとの話を聞いていたとしても、会話を聞かれるのは嫌だと思って。

「場所、取っておくから行ってきなよ。」
「サンキュ。」
「ううん。」

列から外れて行く哉太。周りの声や太鼓の音で二人の会話は聞こえてこない。

哉太は、列が少し進んだ頃に一人で戻って来た。鼻が真っ赤だ。

「みょうじさんは?」
「帰った。家族と来てたんだって。」
「ふーん。」
「夕方くらいに会うことになった。」
「なんで?」
「………わからん。」

素っ気ないふりして少し嬉しそう。

そのあと、二人でお参りをしたんだけど、哉太は奮発するとか言って100円を賽銭箱に入れていた。

俺は、10円を賽銭箱に入れて『世界が平和でありますように』とだけ祈った。目を開けて隣を見ると、哉太が真剣に何かを祈っていた。

そんな哉太を見た俺は、もう10円賽銭箱に投げ入れて、こう祈った。

『哉太が幸せになれますように』







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