あの日から泣かない日はなかった。私、こんなに七海くんが好きになってたんだ。18年間生きてきて、初めて泣くほど苦しい恋をした。
そして今日、私は七海くんに借りた本を返すために星月学園に来ていた。正直、いま七海くんには会いたくない。でも返さないわけにも行かないから。もちろん、七海くんに会うのはこれで最後にするつもりだ。
空は既にオレンジに染まっていて、学園から出てくる生徒もそんなに多くはない。
「どうしよう…。」
部活動をしている生徒達の声で私の声もかきけされる。コシりってやつ?とにかく、学園に入っていく勇気もなければ、七海くんにメールする勇気さえもない。
そんなときだ。
「あ、哉太の…。」
「あ、どうも……。」
確か夏休みの終わりにバス停で会った、七海くんの友達。名前は…知らないけど。
「哉太、呼びますか?なんなら寮まで連れて行きますけど。」
「あ、え…と……。」
この人に頼んでしまおう。七海くんの友達なら本も返せるし、七海くんに会わなくてすむから一石二鳥だ。
「これ、七海くんに渡してもらえませんか?」
「あぁ、いいですけど…。」
「あと伝言なんですけど、」
しばらく会えそうにありません。
それだけ伝えて、私は逃げるように星月学園を後にした。七海くんの友達が何か言ってたような気がしたけど、とにかく私はまた泣きそうになったから早くそこから立ち去りたかった。
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