夏休みが明けて二週間。この二週間、俺は今までよりかなり真面目に授業を受けてきた。それはまたいつかみょうじさんに会ったときのため。知り合ったばかりの人のために、いつ会えるかわからない人のために、なんでこんなに頑張っているのかは自分でもわからない。でも、みょうじさんが楽しそうに俺の話を聞いている姿が目に浮かぶ。その顔をこの目で見るために頑張ろう、そう思える。
変な俺。
まあ、慣れないことをするのは実際辛くて。一週間の疲れが今までの倍になる。そんな自分を癒すために、俺は休日を利用してショッピングモールの本屋に来ていた。
「あ、新刊。」
大好きな野球漫画。買っていって宮地にも貸してやろう。とりあえずその漫画を手に取り、他の場所を回る。
「なまえも彼氏つくりなよ!」
「別に好きな人いないし…」
「好きな人出来るの待ってたら彼氏なんて出来ないよ?」
「でも好きな人以外とは付き合いたくないよ。」
「そんなね、少女漫画みたいにうまくいくわけないじゃん。」
向かいの方から女子の声がする。向かいの棚はたしか少女漫画のコーナーだったか。なんか…この声。
「なまえは恋に恋しすぎ。ちゃんと現実みなよ。」
「うーん…。そんなもんなの?」
「そんなもん!」
「だったら私は………あ。」
その声が近づいてくるのを背中に感じていた俺は、聞いたらいけない話しかもしれないと、自然と歩く速度を速めていた。
「七海くんっ。」
俺を目掛けて近づいてきた足音は俺のすぐ後ろで止まり、その足音をたてていた誰かが俺の腕を掴んだ。
デジャヴ。
でもあのときとは違う暖かい手。そうだ、この手の持ち主は。
「みょうじさん。」
下の名前、なまえって言うんだ。
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