6 張り付けられた笑顔



何十人分のカレーなんて作った事がないからどれくらいの量を買えばいいのかわからず、結局兄さんに電話して大体の事を聞いた。

最後にお前が人に料理作る事なんてあるんだな≠チて、余計な事言ってきたけど帰ったら覚えとけよ。



「おいなまえ!」
「青峰?」
「オレも居るっスよ」
「あら、黄瀬くん」
「お前その荷物の量なんだよ」
「女の子が持つにはちょっと多過ぎっスね〜」



突然現れたかと思うと青峰と黄瀬くんは両手一杯に抱えていた食材達を次々と取っていった。おかげで今私の手には何もない。



「持ってくれるのは嬉しいんだけどさ、君達練習は?まだ4時だけど…」
「今15分休憩なんス」
「さつきのドリンクがクソ不味いから自販行くとこなんだよ」
「え、桃井さんドリンクも作れないの?」
「あいつは料理も裁縫も全部ダメだな」



容姿端麗で頭脳明晰な桃井さんなら家庭的スキルも完璧だと思ってたのに。でもそのちょっと抜けたところが逆にいいのか?

…何オジサンみたいな事考えてるんだろう、私。



「みょうじサン?」
「えっ?あ、何?」
「いや、急にぼーっとするからどうしたのかと思って」
「あー、黄瀬。俺スポドリ買ってくっからなまえと先行ってろ」
「ちょっ、青峰荷物は?!」
「ちゃんと持ってくから安心しろ。じゃあな」



片手にスーパーの袋持ちながら青峰は行ってしまった。いきなり黄瀬くんと2人にされても話題とか全然ないんだけど、どうしましょうか。



「…とりあえず行こっか。15分しか休憩ないんでしょ?」
「そっスね!」



ニコニコしながらそう答えた黄瀬くんに少しだけ違和感を感じた。昔どこかで見た事がある笑顔。



「ねぇ黄瀬くん」
「なんスか?」
「無理してるの辛くない?」
「っ!…な、何言ってるんスか?別に辛くなんて…」
「何をって、聞かないんだね」
「あ…」



少し意地悪な質問しちゃったかな。でも本当に今の黄瀬くんは無理して笑顔を作って、ちょっとした事で壊れちゃうんじゃないかってくらい弱々しかった。



「ごめん、ちょっと意地悪だったね」
「…そんな事言ってきたの、みょうじサンが初めてっス」
「それは周りの人が本当の黄瀬くんを見てないからでしょ」
「本当の、オレ?」
「そう。モデルの黄瀬涼太じゃなくて、一般的な中学生の黄瀬涼太」



宿舎までの道を2人で歩きながら話していると後ろから青峰の声が聞こえてきた。何か言いたげな黄瀬くんに、私は一言だけ言いたい事があったから止まって彼に向き合う。



「私の前では素の自分で居ていいよ。ずっとモデルの黄瀬涼太≠ヘ辛いでしょ?」
「みょうじサン…」
「ほら、青峰も来たし急がないと休憩終わっちゃうよ」



私の言葉で何かがふっ切れたのか、黄瀬くんはさっきまでとは違う本当の笑顔でありがとうと言ってきた。





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