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うっすら目を開ければ見知らぬ風景が目に入る。体中ズキズキと痛むが何とか起き上がって周りを見渡して気づいた、ここ病院だ。頭には包帯、腕にも包帯とおまけで点滴までされていて鈍い痛みが徐々に何が起こったのかを思い出させた。



「ライト、当たったんだっけ…」



未来を変えてしまった代償。誰かが小さな怪我する未来を変えるならまだこんな大怪我はしなかったかもしれないけど、今回は人の命がかかっていたからちょっと代償が大きすぎた。

暫くしてから点滴を替えにきた看護婦さんによって軽い問診を受けた後、医者の診察のもと色々と検査をした。



「スマホは…っと」
「咏羽ちゃん、後できっと星月さんが来ると思うわ」
「星月先生?」
「貴女がここに入院した時から2日に1回は来てたのよ。昨日は来てないみたいだから来るんじゃないかしら」



2日に1回って結構なペースじゃないですか。理事長なのにそんな頻繁にこんな所に来て仕事に支障を来たしたりしてないかな。

私なんかの為に貴重な時間を使わせる訳にはいかないので素早くスマホの画面をスライドさせメール画面を開いた。2週間ちょっと眠り続けていたせいで多大なるご迷惑をおかけした事を謝る文面を作成しようとした。



「神苑、お前起きて…」
「…えーっ、と…ご心配おかけしました…?」
「っ、佐野!」



送信しようとしたその時グッドタイミングで入ってきた星月先生。なんか顔見るの久しぶりかもしれないなんて思ってたら次は佐野さんが慌てて入ってきた。



「…………」
「佐野さん、怪我とかしませんでした?私思い切り突き飛ばしたと思うんですけど…」
「…………」
「佐野さん?」



声をかけても反応しない佐野さん。入ってきて一瞬しかこっちを見なかったし何か様子が変だ。いつもの調子で怒られるんだとばかり思って身構えてたのに。

恐る恐る怒ってます?≠ニ聞くと手に持っていた鞄を床に落としてきつく抱きしめられた。



「さっ、佐野さん?!」
「この2週間ホンマに気が気じゃなかったんやぞ…!」
「…ごめんなさい」
「寝とるお前見る度後悔ばっかり押し寄せて、自分の不甲斐無さに心底腹立った…」



抱きしめるその腕は震えていて、佐野さんがどんな気持ちでこの病室に来ていたのか痛いくらいわかった。やっぱり未来を変える代償は高いな。



「佐野さん。私、佐野さんや他の人達が傷つくのは見たくないの。今回のは少し度が過ぎたかもしれないけどこの先一生未来を変えないとは約束できない」
「咏羽が死にそうになってもか」
「私の命で大勢の人が救えるならいいよ。その為の星詠みだと思ってるから」
「神苑、お前それ不知火の受け売りだろう」



星月先生が言った通りこれは一樹が言ってた言葉。一樹は自分の星詠みで学園の皆が少しでも楽しく過ごせるようにって、怪我する事なんて気にせず誰も知らない所で未来を変えている。

そのせいで月子や颯斗達は気苦労が絶えないみたいだけど。



「でも、変えるのは小さな未来だけにしておくよ。毎回こんなんじゃいつか私が死んじゃう」
「毎回そんな大怪我されたら俺も佐野も寿命が縮むからやめてくれ」
「…ったく、ホンマにお前は厄介な奴やな!」
「い゛っ…!な、殴る事ないじゃない!」








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