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何が起こったのかわからなかった。咏羽に呼ばれて振り向けばアイツは全力で走ってきとるし、上からはライトが落ちてくる。

ここから動かな下敷きになるって頭ではわかってんのに、体はちっとも動いてくれんかった。



「怜音、怜音!」



白い床に赤い水溜まり。俺は頭が真っ白になった。白い肌から流れる大量の血は止まる事はなくて、近くに置いてあった衣装で止血しようとしてもすぐ真っ赤に染まる。

呼び掛けても返事はないしどんどん体温が低くなっていく。



「総合病院に搬送します。付き添いをお願いできますか?」
「………」
「佐野さん!しっかり!」
「あっ……はい!」



スタッフさんに声をかけられて漸く俺は思考を取り戻した。今は咏羽を病院に連れて行くのが先や。

総合病院に着いてすぐ手術は始まった。待ってる時間は生きてる心地がしなくて、ずっと立ったり座ったりの繰り返しだ。



「佐野!」
「…星月」
「神苑は?!」
「1時間前に手術始まって、まだ終わってない…」



普段は白衣を着てラフな恰好をしてる筈の星月。なのに今俺の目の前に居るのはスーツを格好良く着こなした星月学園の理事長。

気が動転していたせいで連絡したのはさっきだし、会議でもしていたんやろか。



「何があったのか説明しろ」
「…咏羽が変な音がするって、だから俺がセット確かめる為に行ったら、上からライト落ちてきてアイツは俺を突き飛ばして下敷きに…」
「……星詠みか」



星詠み。いつだったか気になって調べた事がある。詳しい事はわからんかったけど少し先の未来が見えるらしく、咏羽が俺を庇ったって事は星詠みをしていたんだろうか。

そういや、撮影が始まる前だって俺が口うるさい事言ってたのにやけに素直だった。いつもなら反抗してくるのに。



「俺、アイツの何を見てきたんやろ…」
「しっかりしろ、佐野。今ついててやれるのはお前だけなんだ」
「4年。4年もアイツを見てきた筈なのに、俺はいつも肝心な部分を見落とす…今回だって気づけた筈やのに!」
「…後悔なら神苑の手術が終わってからするんだな。今は無事を祈っておけ」



自責の念が俺を蝕んでいく。咏羽の無事を祈る事が今の俺にできる事なのに、もし後遺症が残ったら、腕や足が満足に動かせんようになったら、そればっかりが頭を支配する。

それから1時間後。手術は終わったが咏羽が目を覚ますかどうかはわからないと医者に言われ、ついに俺の思考は停止した。








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