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久しぶりに夢を見た。忙しい撮影現場で、何かが落ちて大惨事になる夢。そこに佐野さんも居て皆が真っ赤に染まる夢。
ただの悪夢だったと、そう思えればよかったのに佐野さんが来た時点であれは正夢になる。つまり私は星詠みの力を使ったんだ。
「咏羽!!」
「…何ですか?」
「ちょっと来いや!」
「え、ちょっ、佐野さん?何怒ってんの?!」
木曜日の昼。数少ない登校日なのに休んで仕事に来ている私は、何故か怒った様子の佐野さんに腕を引かれて衣装部屋へと連れ込まれた。
「お前、星月学園辞めるてホントか?」
「誰から聞いたんです?まぁ、辞めますけど」
「何でや!あないに頑張っとったやろ、今更辞めるて…」
「やむを得ない事情ってゆーのがあるんですよ。佐野さんが気にする事じゃありません」
笑いかけても佐野さんの表情は変わらない。何でそんなに思い詰めたような顔をするんだろう。全部私が招いた結果なのに。
「ほら、早く行きましょう?今日忙しいんだから」
「…お前の突発的な行動には敵わん…次何かあったら絶対俺に言えよ」
「はいは〜い」
「はいは1回や!!」
佐野さんが後ろでまだ何か言ってるけど今はそれどころじゃない。あの星詠みが本当に起こるなら周りの人達に気を遣っておかないと、下手したら死人が出るかもしれない。
もう何ヶ月も星詠みをしなかったのに、何で今このタイミングなんだろう。それも、今までにないくらい鮮明な映像。
「怜音ちゃん!もう話しはいいの?」
「はい!今日もよろしくお願いします」
まだその時じゃない、そう気持ちを切り替えて私はカメラの前に立つ。私さえちゃんと周りを見てれば被害は最小限に抑えられるんだ。
それから2時間撮り続け、休憩時間になって佐野さんと撮った写真を見返しているとどこかで異様な音がした気がした。
「…佐野さん、あっちで変な音しませんでした?」
「あっちって、セットか?何や、どっか壊れてるんか」
「私見てきます」
「あー、ええよ。俺が見てくるからお前は次の服着とれ」
何だろう、嫌に胸の鼓動が増す。変な音?でもあのセットに簡単に壊れてしまう物なんてない。だったら何が壊れる?
注意深く周りを見渡すと天井に吊してある大きなライトがゆらゆら揺れて、今にも落ちそうになっているのが目に入った。
「…っ!佐野さん!皆!そこから離れてッ!!」
「怜音?…なッ!」
全てがスローモーションに見えた。佐野さんや皆に当たってしまう前にと、全力で走って向こう側に突き飛ばす。
当然、突き飛ばした私はその下敷きになった。
「怜音ッ!!」
「い…っ、いやぁああー!!」
「誰か救急車呼べ!早く!!」
佐野さんが側で何か言ってるのに、私には何を言ってるのか全然聞こえない。そのまま私の意識は暗い闇へと沈んでいった。
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