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「お前、何言って…」



月曜日の放課後、星月先生に退学届けを貰う為に理事長室を訪れた。



「事務所と話し合ってここを辞める事にしました。勝手に決めてごめんなさい」
「条件を破った事がバレたのか?」
「ううん。…嘘つき続けるのに疲れたし、私と僕、どっちが本当の自分かわからなくなったんだ」
「神苑…」



仕事場じゃ私、学校では僕。態度も違ければ話し方も違う。そんな生活を2年もやっていると偶にどっちが本当の自分なのかわからなくなる時がある。

最近だって仕事場じゃないのに私って言いそうになるし、学校じゃないのに僕って言いそうになる。曖昧になってきたのを、何かとごまかしてきた。



「他にも理由はあるけどここらが潮時なんだよ、先生」
「夜久達にはなんて説明する気だ?まさか、何も言わないで居なくなろうなんて考えてるんじゃないだろうな」
「まさか、そんな事したら錫也に殺されちゃいますよ。…きっと引き止めるだろうから出ていく前日にでも話します」



ちゃんと考えて出した答えなら俺は何も言わない≠ニ退学届けを渡してくれた。星月先生には本当に感謝してる。こんな面倒な生徒をここまでサポートしてくれたんだから。

退学届けを折り畳んでポケットにしまうと、ある人の元へ向かった。



「…一樹、居る?」
「おー!」
「ちょっと話しがあるんだけど、いい?」
「話し?後で誉も来るが、それでもいいか?」
「うん、誉にも話さなきゃいけないから丁度よかった」



生徒会室には珍しく一樹1人だけ。月子は部活、颯斗は翼の校内の見回りと称した息抜きに付き合って行ってるらしい。



「話しって何だ?」
「あー、誉が来るまで待ってくれない?」
「それは構わないが、厄介な話しなのか?」
「ううん、至極簡単な事だよ」



ここに来るのもあと数回だと思えば偶には月子の不味いお茶じゃなく美味しいお茶でも飲んでもらいたいと、給湯室から勝手に湯呑み等を借りて一樹に出す。

普段やらない事をやると不信に思われるらしく、怪訝そうな顔をした。



「一樹、お茶菓子持ってきたよ。あれ、咏羽?」
「久しぶり」
「誉も座れよ。咏羽が茶を出してくれたし俺達に話しがあるんだとよ」
「僕達に?」



不思議そうな顔をするも誉はソファーに腰を降ろすと持ってきたお茶菓子を配った。出された瞬間に一樹が間髪入れずに食べるもんだから誉がデコピンで窘める。



「で、咏羽の話しって何かな?」
「…僕ね、今週末に学校辞める事にした」
「………今なんて」
「僕だけじゃどうにもならないアクシデントが起こったの。それは僕が抱える問題を無くせば回避できる」
「だからって辞めるのはおかしいだろ!条件付きでも今日まで頑張ってきたんじゃないのか?!」



一樹が怒るのは最もだ。この学園の生徒会長でこの学園の生徒の事を1番に考えてる人だから。

誉だって理由を聞いて納得したような顔をするだろうけど、心の中じゃ疑問だらけだと思う。



「もうこれは決定事項なんだ。社長にも言ってある」
「お前はそれでいいのかよ…っ」
「うん。誰かを守る為に犠牲は付き物なんだよ、一樹。丁度星詠みの力だって発現しなくなってきてたし」
「咏羽が決めた事なら僕は何も言わないよ。ただ、自分1人で抱え込むのはやめよう?その為に僕達は居るんだから」
「…ありがとう、誉。一樹も、僕の為にありがとね」



結局最後まで一樹は納得してくれなかった。自分が頼りないばっかりにとか、そうゆう風に責めてるんだろうけど、絶対にそれはない。

僕が自分で蒔いた種だから、後始末は自分でやらなきゃ。








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