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「降旗さん!」
「あれ、怜音どうした?今日はオフじゃなかったか?」
「ちょっと社長に話しがあって来たの。社長室に居る?」



オフの日に事務所に来るのは新人の時以来だ。中に入れば丁度マネージャーの降旗さんが居て、社長が居るかどうかを尋ねると顔をしかめた。



「居るには居るが…何の用だ?」
「相談っていうか、ちょっと聞きたい事があって」
「俺にはできない相談か?」
「できるけど、先ずは社長に話さなきゃ始まらないかな」



そう言うと降旗さんはわかった≠ニ言って私の前を歩き出した。きっと降旗さんは薄々気づいてる筈だ。

私がこれから社長に何を話すのか、何を聞こうとしてるのか。



「社長、怜音が話しがあるそうですが」
「怜音が?入りなさい」
「ほら、入れ」
「失礼します」



促されて社長室へと足を踏み入れる。何回か入った事があるとはいえ、やっぱりここの空気は張り詰めていて苦手だ。

社長は今時珍しい葉巻を優雅に燻らせながら私の方を見てきた。



「話し、とは何だ」
「…木ノ瀬梓をスカウトしたのは何故ですか?」
「その事か。彼は限りない才能を秘めている。初めてだとは思えない程、よくできていた」
「貴方の事だ、それだけじゃないでしょう?」



この人は悪い人じゃない、それはわかってる。常に事務所や所属する人達の事を考えて仕事を与えたり、時には相談に乗ってくれたりする人だから。

でもデメリットを出す様な人には容赦がない。問題を起こしたり仕事に失敗をする様な人はすぐ解雇してしまう。私は星月学園に入学してからずっと、デメリットを残す人間かメリットを残す人間か試されている。



「お前は幾つもの問題を抱えている。家の事情、学園の事情。そんな奴が我社にメリットを及ぼす可能性は限りなく低い」
「………」
「デメリットを残す可能性の方が大きかった。なら新しく有益な存在を見つければいいと思ってな。そこに現れたのが彼だ」
「私は、私をモデルとしてここまで育ててくれた貴方と降旗さんに感謝しています」



危惧しつつも見捨てずにここまでサポートしてくれていたのには、本当に感謝している。それでも、私は木ノ瀬くんを巻き込む訳にはいかないんだ。



「だから、星月学園を退学しようと思っています」
「怜音!」
「…何故だ」
「星月学園に入ったのは星詠みの事もあったけど、何より家に居たくなかったから。でも、他人の人生を私のせいで変えてしまうくらいならそんなのはどうでもいい」
「辞めればお前があちらで作った友達に会えなくなるぞ。それでもいいのか」
「構いません。デメリットなんて物、残さないのが社訓でしょう?」



これが、私ができる最大の事。私がデメリットを出すから木ノ瀬くんを起用しようとしてるなら、そのデメリットを無くせばいい。

星月先生や一樹達には悪いけど、私にだって譲れないものがあるんだ。こんな事、木ノ瀬くんに言ったらなんて言われるだろう。








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