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「3人でこんな風に歩くの久しぶりだね」
「そういえばそうだな」
「大抵は桜士郎がついて来たりしてたしね」
「…懐かしいなー…」



海沿いを真っ直ぐ歩いていくと大きな展望台が見えてくる。夏の夜にあそこに行って星座を見るのが1年生の頃の楽しみだった。あの頃はまだ仕事はたくさんあっても時間に余裕はあったから、よくいろんな人とここに来てた。



「咏羽、お前俺達に大事な話しがあるんじゃないのか?」
「…ないよ?ただ歩きたかっただけ」
「咏羽」
「なーに、誉」
「嘘は良くないよ。そんな顔でそんな事言われても僕も一樹も納得しない。それは咏羽が1番わかってるでしょう?」



立ち止まって振り返ると一樹も誉も困った様な顔をしていて僕は何も言えなくなった。

2人に今更なんて言ったらいい?2年も黙ってた事を今更言われて一樹達はどう思うだろう。怒るだろうか、悲しむだろうか。どちらにせよ僕には本当の事を話す勇気がなかった。



「はぁ…お前が話したい事ってモデルをやってるって事だろ?」
「っ…何で一樹が知って、」
「俺は星月学園の生徒会長だぞ?知らない事はない」
「一樹も嘘は良くないね。星月先生が話してるのを聞いたんでしょ」



星月先生も人の事言えないじゃないか。というか今年は厄年なんじゃないかって思うくらい一気にたくさんの人に秘密がバレてる。

ここまできたら、もう隠す必要なんてないんじゃないか。



「…一樹の言う通り、僕モデルやってるんだ。星詠みの力があって事務所からの条件付きで学園に通ってる」
「バレれば退学ってか?」
「うん。でももうそれも意味なくなってきたし、潮時なのかなって」
「…辞めるつもりなの?」



辞めるのかって改めて聞かれるとうん≠ニは言いづらい。前なら特別思い入れがある訳じゃなかったし辞めろと言われれば辞められた。でも今は大事な友達が居て助けてくれてる先生も居る。

騙してる上に黙って辞めていくなんて、今の僕にはできそうになかった。



「自分でもわかんないや…」
「…俺達が黙ってるだけじゃ、解決しない話しなのか?」
「それもできる。けどさっき怜音じゃなくて咏羽として写真集に出ないかって誘われたの」
「それって、つまりは」
「学園皆に僕がモデルだってバレる事になる。世間にも」



展望台の近付くまで行くと仲良く歩く家族が目に入った。モデルなんかやらなきゃ、あんな風に家族と幸せに暮らせていたかもしれない。そう考えたら一気に嫌気がさして逃げ出したくなった事もあった。

いつだってモデルなんか≠チて思ってる自分が居て、それを佐野さんに話せば少し休んだらいいって言われた事もあった。



「まだ、家族に会いに行ってないのか」
「行ってないよ。行ける訳ないじゃん、家庭を壊したのは僕なんだから…」
「咏羽…」
「もうこの話しは終わり!バス時間、もうすぐだし帰ろう?」



帰りのバスでは一樹も誉も喋らなくて、ただ見慣れた外の景色を眺めてるだけだった。








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