18




「佐野さん本気で言ってる?」
「俺はいつでも本気や」
「今までどんなに無茶な事でもできる限りやってきた…でも今回のは無理!」
「何でや!その服にはそのポーズしてもらわな困る!」



背中と脚を大胆に出した黒いコルセットドレスを着せられた私は指示通りシックなチェアに脚を魅せる様に座る。そこまではまだ良かったんだ。

数分後に木ノ瀬くんも白いワイシャツに黒のネクタイとベストにパンツ、黒いハットにカットグローブを付けてこちらに向かってきた。何かのお話しに出てくるマフィアみたいだなとか思いつつ、佐野さんに言いくるめられる前に木ノ瀬くんに同意を求めなきゃ。



「何を騒いでるんです?」
「木ノ瀬くんも否定して!」
「何をですか!」
「こいつキスシーン拒否るねん!」
「…………」



ほら、木ノ瀬くんも固まっちゃった。だいたい顔見知りでしかも同じ学校なのに何でそんな気まずい事しなきゃならないんだ。

この洋服のテーマはマフィアとの恋。だから佐野さん曰くキスシーンは絶対に外せないとの事で、私の中で過去最大の無茶振りだった。



「梓はええよな?」
「木ノ瀬くんも嫌だよね?」
「…僕は別に怜音さんが良ければ構いませんよ」
「さっすが梓!話しがわかる奴で助かるわ〜」



キッと木ノ瀬くんを睨むと彼は微笑む様に私を見てきた。そんな簡単に承諾していいものでもないだろうに私が良ければいいだなんて。アレか、そうゆう事には慣れてますよ的な感じか。



「もういい…こうなったら何でもやってやるわよ…」
「おー!気張りや〜」
「さ、怜音さん行きましょうか」
「…木ノ瀬くんの馬鹿」
「何とでも言ってください」



腹を括って木ノ瀬くんと共にセットに向かうと外国製のロングソファーが置かれていて、周りには赤と黒の薔薇が散りばめられていた。一体どれだけ凝ったコンセプトなんだろうか。

佐野さんの指示する通り、ソファーに木ノ瀬くんが横たわりその上に私が顔を近づけながら乗る。



「先輩ったら大胆ですね」
「っ…喋んないで」
「すいません」



カメラのシャッター音が響く中次々と角度を変えていく。100枚以上撮ったであろう頃、遂に問題のシーンをやる時がきた。



「よっしゃ!次で最後やから2人共頑張ってや」



ソファーの中心に向かい合わせで座る。私は女の子座りで木ノ瀬くんの首に腕を回し、木ノ瀬くんは片足を伸ばして私の太股に手を這わせながら顔を近づけてくる。

こんなシーン、今までに何回もやってるのに凄くドキドキしてるのは何でだろう。



「ほな、撮るで〜」



佐野さんの掛け声でまた響き渡るシャッター音。柄にもなく心臓が早鐘を打ってる私にはそのシャッター音すら聞こえなくてただ木ノ瀬くんを見るばかり。



「先輩…」
「…私とキスした事、後悔しないでよ」
「する訳ないじゃないですか」
「ならいいけど……」



そっと木ノ瀬くんにキスをする。最初は優しかったキスも佐野さんの要求により段々と激しいものと化していく。これ、本当に撮影していい物なんだろうか。

最後のショットは木ノ瀬くんが私を押し倒してソファーに横たわる様にという指示が出た。妖艶さとセクシーさを出したいらしくコルセットの紐を何本か解いて胸があと少しで露わになるぎりぎりなラインだ。



「これ、何の拷問なんですかね…」
「発情しないでよ」
「しませんよ。でも僕だって一応健全な男子って事、忘れないでくださいよ?」
「梓くんへんたーい」
「っ…キャラ変わりすぎでしょう」



ハットを取ると木ノ瀬くんは私の首筋に顔を埋めてきた。私はそれに合わせて木ノ瀬くんの髪を指に絡める。

佐野さんによって始まった波瀾な撮影は何とか終了した。私も木ノ瀬くんも終わった後も何だか気恥ずかしくて交わす言葉も少ないまま、星月学園行きのバスに乗って帰った。








前へ*次へ
[戻る]


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -