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「………」
「神苑先輩、いい加減こっち向いてください」
「…ここでその呼び方は禁止。ここの人達は怜音としての私しか知らないから」
「じゃあ怜音さん、こっち向いてください」



事は数分前。昨日佐野さんが甥っ子くんを連れて来ると聞いていたからどんな人かと楽しみにしていたのに、愉快そうに連れて来た甥っ子くんはまさかの木ノ瀬くんだった。

私を見るなりニヤってしたから絶対今日の事黙ってたんだ。



「今日の事知ってた癖に何でメールしてくれなかったの」
「そしたら怜音さんの驚く顔が見れないじゃないですか」
「…悪趣味」
「やっとこっち向いた。あれ、今日は化粧濃いんですね?」



観念して木ノ瀬くんの方を向くと彼はキラキラした瞳で私をジッと見てきた。本当に彼は変わった子だと思う。女の子だったら洋服が好きだとかそうゆう理由で見学する子は居るけど、男の子で見学したいなんて言う子は初めてだ。



「ゴシック調の服が多いから、ナチュラルメイクじゃ合わないの」
「モデルって大変なんですね。でも怜音さん、生き生きしてて楽しそうですよ」
「楽しそう…?」



モデルを始めたきっかけはただスカウトされて始めただけだし特にモデルに対して強い思いを持ってる訳じゃない。最初から華々しくデビューできた訳でもないし、むしろ辛かった事の方が多かったから楽しいなんて思う暇はなかった。

それでも今もこうして続けられてるって事は、木ノ瀬くんに言われた通り少しは楽しいと思えてるって事なのかな。



「梓!」
「和成さん、どうかしました?」
「ちょーっと頼み事があるんやけど、聞いてくれへん?」
「…佐野さん、まさか」
「怜音と撮る筈やった男モデルが来れんくなってん。せやから梓に代役頼みたいんよ」



私の嫌な予感は的中。代役なんて事務所に連絡したらすぐ来れるだろうに、何で木ノ瀬くんに頼むんだこの人は。



「代役って、怜音さんと一緒に撮るって事ですよね?」
「そうや。身長もいい感じやし、お願いできん?」
「木ノ瀬くん、無理して引き受けなくていいからね?事務所に言えば」
「楽しそうですし、僕でよければいいですよ」



ああ、引き受けちゃったよこの子。よりによって佐野さんが居る時に。佐野さんは私が男モデルと撮る時は必ずと言っていい程無理難題な事を要求してくる。

それが原因で何を勘違いしたのか告白してくる人がいてあの時は本当に困った。



「木ノ瀬くん。引き受けたからには覚悟、決めといた方がいいよ」
「どうゆう事です?」
「…今にわかるよ」



こうして佐野さんによる佐野さんワールド全開の撮影は始まり、私と木ノ瀬くんは振り回される事となる。








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