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まさか水嶋先生にバレてるとは思わなかった。この人が意外に交友関係が広い事も薄々はわかっていたのに、そこまで気が回らなかった。



「水嶋先生、いい加減退いてもらえますか」
「あれ、否定はしないんだね」
「聞こえませんでした?…退けって言ってんのよクソ野郎」
「!」



あーあ。利口で先生に従順な生徒を演じてたつもりだったのに、この人のおかげでそれも今日限りだ。

水嶋先生を押し退けて錫也と哉太の方に歩み寄る。どうやら心底驚いたみたいで、僕が近づいても何も言わなかった。



「今聞いた事は忘れてね」
「…お前、本当に」
「哉太、余り詮索はしないで。これは僕だけの問題じゃないから」
「……咏羽」
「何、錫也」



そう、これは僕だけの問題じゃないんだ。バレれば星月先生だって困るし、メディアに露見すれば学園の皆にも迷惑がかかる。

だから、錫也達には黙っていてもらわないといけない。それが例え、この関係が壊れたとしても。



「きっとお前の事だから、何か言えない事情があるんだろ?だからもう俺達からは何も聞かない」
「………」
「ただ、その事を俺達に話して迷惑がかかると思ってるんだったら、それは間違いだから」
「…ごめん」



錫也はいつもそうだ。自分の事は後回しにする癖に、人の事となると凄く敏感になる。今僕に言った事だって僕の事を心配して言ってくれた。

その優しさが、今の僕には辛い。謝罪の言葉を口にして僕は2人の間をすり抜ける様に保健室を出た。



(聞かれたのが錫也と哉太で良かった)



あの2人以外の人に聞かれたら、きっとあっという間に事実は広まる。本人が居る場所で聞いたんだ、否定の言葉だって意味はない。



「神苑!」
「…星月先生」
「悪いな、呼び出しておいて」



保健室を出て階段を上ろうとした時、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。振り向けばそれは星月先生で、白衣姿から一変、スーツをきっちりと着こなして何だかいつもより一層格好良く見えた。



「構いません。ところで急で申し訳ないんですが、僕明日からしばらく休みます」
「本当に急だな。仕事か?」
「違います。まぁ、仕事って言ったらそうかもだけど、単なる逃げです」



分かりきった事をあえて自嘲気味に言ってみる。星月先生も最初は分からないと言った表情をしていたけど、僕の言った意味が何と無くわかったんだろう。

もう既に昼休みは終わっていて、誰も居ない廊下で星月先生と2人、5時間目をサボった。








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