きっと夢中にさせるから! 犬飼
高校3年、冬。彼氏が出来た。犬飼隆文。卒業間近のこの時期に2週間だけ、期間限定。私が彼のことを好きになって無理矢理付き合ってもらったのがきっかけだ。
「隆文、一緒に帰ろう!」
「ん?ああ。」
2週間でどうやって彼に好きになってもらおうか試行錯誤の日々。でもこの関係も今日で最後だ。
「ほら、手。」
「……いいの?」
いいから、と私の手を無理矢理握る彼。手が冷たい。心臓がドクンと音をたてて跳ねあがる。それは彼の手が冷たくてビックリしただけじゃなくて、ドキドキと、明日で最後だという現実を突きつけられた痛みを感じたせい。
「ありがとう、2週間。」
「…………うん。」
「楽しかった。けどね、」
私は彼に全て話した。何が楽しかったとか最初だけで後半は今日という日が来るのが辛かったとか。でも、彼の彼女だということが幸せだったとか。そして、
「……もっと隆文のことが好きになってたよ。」
「…………。」
「けどね、隆文が私のこと何とも思ってないのはわかってる。ちゃんと隆文のこと諦めるから…だからこれからもずっと……友達、でいようね?」
泣くな、泣くなと思うのに比例して涙が溢れてくる。彼は私のことを不細工って言うけど、きっと今の私は彼に見せてきた顔の中で1番不細工な顔をしてる。
彼は泣いている私に少しビックリすると白い息を短く吐いてマフラーに顔を埋める。あ、眼鏡が少し曇った。
「1週間。」
「1週間?」
「俺と……付き合わね?」
「は?」
私は困惑して、ただ目を丸くするしか出来なかった。彼はそんな私を見て小さく笑い、握る手の力を強くした。
「俺さ、お前のこと常日頃から不細工だなーって思ってたから約束どおり今日でやめようと思ってたんだけど…今の泣き顔見て……なんか、その、可愛いって思った。」
「え、」
「わかんねーけど、なんか変わりそうな気がした。今日で終わりたくねーって思った。……だから、」
「………。」
「今度は逆。試されるのは名前じゃなくて俺。…1週間俺と付き合ってみませんか?」
「…………はい。」
断る訳ないじゃない。大好きな彼から告白されるだなんて。例えお試し期間の延長戦だとしても嬉しいに決まってる。私はさっきまでの涙を吹き飛ばして満面の笑顔。
「期待、していいから。」
「うん!」
へらっと笑った彼の横顔が少し赤かったのは寒さのせいにしておこう。
きっと夢中にさせるから!
thanks 確かに恋だった
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