恋に恋して、君に恋した 東月
昼間のショッピングモールは大勢の人で溢れ返る。それを不快に思わないのは俺の少し前を歩く彼女が、迷子になったりしないか心配でそれ所じゃないから。
「名前、はぐれるなよ」
「大ー丈夫!」
笑顔で振り向く名前。久しぶりに街まで来たからかいつもより少しテンションが高い気がする。
連れてきて良かったな、なんて思っていたらさっきまで目の前に居たはずの名前が居ない。
「…名前?」
まぁ、何と言うかベタな展開になったな。って、そんな事言ってる場合じゃないか。
「名前!!」
こんな広い場所を闇雲に探すよりまずは辺りを見回して名前が居ないか探した方がいいな。それでも見つからなかったら携帯に電話すればいい。
「まったく…素直に手、繋いでおけばよかったな」
自嘲気味にそんな事を言ってみる。名前の事を好きだと自覚してからあまり触れないようにしてきた。自分に自信がない訳じゃない。でもこれ以上に名前の事を好きになりそうで怖かった。
「とりあえず、電話してみるか」
考えるのもそこそこに携帯を取り出して名前の番号にかけてみる。意外にも名前はワンコールで出た。
「名前?」
『錫也?ごめん、はぐれちゃった』
「心配したよ。今どこに居る?」
『えっと…大きなモニュメントの所』
「今行くから、そこで待ってろよ」
電話を切って名前の居る場所に向かう。ここからモニュメントのある所までそう遠くはない。
もうすぐ着くって所で名前の姿が見えた。でもその隣には数人の男も居る。
「やめて下さい!」
「いいじゃ〜ん。俺らと行こうぜ?」
「だからっ」
「名前」
本当、名前には手をやかされるばっかりだ。今みたいにすぐ知らない奴に絡まれる。だから目が離せないんだ。
「ちっ、男居たのかよ」
「行こーぜ」
男連れだとわかるとすぐに消えていった。本当にああゆう男って居るんだな。
「名前、大丈夫?」
「うん。助けてくれてありがとう」
「まったく…あんまり心配させるなよ」
「ごめんなさい」
「…ほら、行くよ」
然り気無く名前の手を取る。少しドキドキしたけど、また居なくなられるよりはずっといい。
「錫也、ありがとう」
「…どういたしまして」
きっと今顔が赤くなってるに決まってる。それを見られないようにそっぽを向けば、名前が微かに笑った気がした。
恋に恋して、君に恋した
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