時を翔る 木ノ瀬
夕焼けが綺麗に見える丘で私と彼は出逢った。いつの間にか隣に居た彼の横顔が綺麗でつい見とれてしまって声なんてかけられなかったけど、次の日の入学式で彼は新入生代表で壇上に上がった。正直運命だと思った。昨日の今日でもう会えないと思っていた人に会えたんだから、きっと神様からのご褒美だ。
それから皆と一緒に体育祭や修学旅行を楽しんだ。楽しい時間はあっという間に過ぎて3年という年月が経った。
「もう卒業なんだね」 「そうだね」 「梓と出逢ったのもここだったなー」 「あの時名前、ずっと僕の事見てたでしょ」 「え、気づいてたの?」 「あれだけ見られてたら嫌でも気づくよ」
3年前この丘で出逢った私と梓。あれから誰よりも仲良くなった私と梓はカップルと間違われるくらいずっと一緒に居た。登校するのも下校するのもいつも一緒。梓はただの友達としか思ってないかもしれないけど、私は梓が好きだ。
でも明日には卒業してお互い別々の高校に進学する。梓は全寮制の高校だからこの街からは居なくなってしまう。
「さて、暗くなってきたことだし帰ろうか」 「…そうだね。帰ろっか!」
ベンチに置いていた鞄を持って梓と丘を下る。ふと空を見上げると夕焼けはもう星が輝く夜空へと姿を変えていた。私が好きな夕焼けはほんの少しの時間しか見られない。梓は夕焼けより夜空の方が好きだって言ってたけど、私はどうしても好きにはなれなかった。
「あ、僕明日の卒業式が終わったらすぐ家出るから」 「え?」 「早めに行って部屋の整理とかしなきゃいけないし、のんびりしてらんないんだ」 「そっ、か…」 「名前も高校の授業についていけるように予習とかしといたら?もう僕教えてあげられないんだし」
笑いながら梓はそう言った。明日から梓の居ない生活が始まる。急に襲ってきた不安がどうしようもなく私を追い詰めてきた。でも梓にそんな情けないところは見せたくないから、明日は笑顔で見送ろう。
卒業式当日。3年前新入生代表として壇上に上がった梓は今度は卒業生代表としてステージの上に立っていた。本当に今日が最後なんだと思うと何気ない台詞一つ一つが心に響いて、卒業式が終わる頃にはボロ泣き状態だった。
「名前ー!高校行ってもよろしくね!」 「うん!あ、ねぇ梓知らない?」 「木ノ瀬君?親と車に乗ってもう帰っちゃったわよ?」 「…嘘」
まだありがとう≠熈頑張って≠煢スも言ってないのに何で?私に何も言わないまま行っちゃうなんて梓らしくない。それにちゃんと言わなきゃいけない事だって言えてない。
「私、ちょっと行ってくる!」 「頑張りなさーい!」
卒業証書を片手に全速力で走る。車ならもうそのまま駅に行っちゃったかもしれない。私が人にぶつかりながらも駅を目指して走り続けた。ただ、梓に一言言うためだけに。
駅が見えてくる頃にはもう息が苦しくて何度も立ち止まりそうになったけど、梓の家の車が見えたから最後の力を振り絞ってホームまで行った。
「あ、あず…さっ!」 「…名前?」 「はぁっ、何で、黙って行っちゃうのよ…!」 「名前に、別れの言葉なんて言いたくなかったから」 「お別れの言葉とか、そんなの言われたくないし、言いたくもないよっ!」
呼吸を整える隙もなく梓は話し始める。きっと発車時刻が迫ってきてるからだ。のんびり話してる隙はない、言うなら今だ。
「私、梓が好き!」 「…は?」 「梓が好きなの!3年前、あの丘で会ったあの日からずっと」 「………」 「梓は私の事、友達としか見てないかもしれないけど。私は梓が好き」 「……はぁ…ホント、名前には驚かされてばかりだよ」
人の目も気にせずに私は梓に思いをありのまま伝えた。答えがNOでも構わない。私にとって今大事なのは素直な気持ちを梓に伝える事だから。
一瞬目を見開いた梓は、すぐいつもの表情に戻って私の手を引っ張って抱きしめてきた。
「うわ!あ、梓?」 「…先に言われるとは思わなかった。まったく、名前には敵わないよ」 「梓、それって」 「答えは次帰ってきた時までのお預け」 「え?」 「タイムアウト。またね、名前……」 「っ…、梓!」
梓が私を離して軽く肩を押すと電車のドアが私と梓を遮った。答えはお預けってもうさっき答え言ったようなもんじゃんか、なんてツッコミはしないでおこう。
梓を乗せた電車を私は見えなくなるまでずっと眺めていた。最後に耳元で囁かれた言葉、早く時が経てばいいのなんて思ったのは私だけじゃなくて梓もだといいな。
(3年後、あの丘で待ってて。迎えに行くからさ)
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GReeeeNのオレンジを聴きながら書き殴った作品です。もうグダクダで申し訳ない。管理人、どう頑張っても話しを終わらせられない奴なんで強引に終了させました(笑)
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