Hold me tight. 東月/流星様(捧)
「寒い、めちゃくちゃ寒い…っ」
10月も後半。秋もそろそろ終わりに近付いてきて気温もぐっと下がった。朝には冷たい空気が、夕方には冷たい風が私の体温を容赦なく奪っていく。
おかげで冷え症な私の手足は冷えきってしまって血色が悪かった。
「あーあ、錫也何してるかな…」
朝は月子達と一緒に登校してるけど放課後は私と帰ってる錫也。でも今は隣に居ない。昨日久しぶりに派手な喧嘩をやらかしたからだ。
「重たいって、思われちゃったかな」
幼なじみが大事なのは私だってわかるし理解してるつもりだった。でも彼女≠ネのは私で月子は幼なじみ≠チて言うカテゴリの人。でも錫也はいつも私より月子の事を優先する。
それが凄く悲しくて悔しくて、ついには堪えられなくなって錫也に全てをぶつけてしまったんだ。
「名前ちゃん!」 「………月子」 「ねぇ、名前ちゃん錫也と何かあった?」 「…何で?」 「錫也、今日1日中元気がなかったの。哉太も羊くんも心配して聞いたら名前ちゃんと喧嘩したって」
そこで月子が原因で≠チて言わない辺り、流石錫也だと思う。こんな状況になっても大事な幼なじみは守るんだもん、彼女の私は二の次なんだよね。
何でこんな事になっちゃったんだろう。いつからこんな面倒臭い女になったんだろう。一緒に居られるだけで幸せだった筈なのに、いつからこんな欲張りになったの?
「名前ちゃん…?」 「私、もう錫也とは別れるよ」 「え…?」 「こんな面倒臭い女、錫也だって嫌だよ。だから…」 「そんな事…っ、…錫也」
月子の口から紡がれた名前に反応してゆっくり振り向けば酷く傷付いた様な顔をした錫也。私は小さくごめんなさい≠ニ呟いてその場を走り去った。
あんな顔した錫也、初めて見た。私が悲しませた、傷付けた。本当に私何やってるんだろう。
「名前待てっ!」 「っ…!」 「逃げるなよ…!」
腕を強く引かれて錫也に抱きしめられる。全力で走りすぎてまさか追い掛けてきてるなんて気付かなかった。
私がどんなに強く胸を押しても錫也はびくともしなくて、仕方なくそのままでいる事にした。
「さっきの、本気で言ったのか…?」 「…うん」 「何で…」 「だって、錫也は月子が1番でしょう?私はいつだって月子の次だもの」 「………っ」
ほら、口から出る言葉はもう錫也を傷付けるだけ。
「私、錫也の彼女だよね…?」 「当たり前だろ」 「じゃあっ、少しは私の事も優先してよ!いつもいつも月子がって、遊ぶのもお昼食べるのもいつだって…!」 「ごめん…っ、俺名前の事、苦しめてたよな」
そう言うと錫也は腕に込める力を強めた。まるで何かに縋ってる様な、そんな感じがした。
本当は私だって別れたくなんかない。でも今の状況は辛いし何より錫也の事も月子の事も傷付けてしまいそうで怖い。
「月子は幼なじみだって事、名前はちゃんと理解してくれてるって安心してたんだ。だから今まで通りでも大丈夫だって」 「何も大丈夫じゃないよ…」 「名前の優しさに甘えて、結果お前を苦しめた。本当にごめん。これからは名前の事、今以上に大切にするから」
別れるなんて言わないでくれ
小さくてよくは聞こえなかったけど、確かにそう言った。私が思ってた以上に錫也に想われてたのかな。こんな必死な錫也は初めて見たかもしれない。
「もう私、2番じゃない?」 「ああ」 「お昼も食べてくれる?」 「名前の分のお弁当作るから、一緒に食べよう」 「…なら、許す」
関係が危うくなる程の喧嘩をするのはこれが最後だと思いたい。こんなに胸が苦しくて泣きたくなるなんてもうごめんだ。
錫也はぎゅっと抱きしめると頬に一つキスを落として、そっと耳元で囁いた。
(一生離さないから、覚悟してな)
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