あの日、僕らは確かに 木ノ瀬
12月の星空はとても綺麗。幾億という星たちが綺麗すぎて嫉妬してしまう程に。
「星空に嫉妬なんて…ばかみたい」
無条件で彼の心を、瞳を奪っていく。私がどんなに努力しても出来ない事を、今私の目の前に広がる星空はいとも簡単にやってのけてしまう。
「あれ?苗字先輩?」
「…梓くん」
声がした方に体を向ければ、手に可愛らしい袋を持った梓くん。きっと女の子に貰ったんだろうな、そう思いながらも気になったので聞いてみる。
「その袋、どうしたの?」
「あぁ、これですか?街に行ったら知らない女の人に渡されてしまって」
「…よく受けとったね」
「もちろん丁重にお断りしましたよ。それでも引いてくれそうになかったので、仕方なく」
その女の人はきっと梓くんの事が好きなんだ。外見も中身も素敵な梓くん。弓道がとても上手で中学の頃から有名だった。
私はこれ以上梓くんを見ていると余計な感情が溢れ出しそうで、課題をやるという理由で逃げるように去った。
「こんなに余裕無くなるなんて、笑っちゃうな」
寮までの帰り道、1人で星空を眺めながら歩けば携帯が軽快な音を奏で始めた。
「空気を読めよー。誰だか知らないけ、ど…」
携帯を取り出してディスプレイを見れば、さっきまで話していた人の名前が表示されていた。
FROM:梓くん SUB:無題 ――――――――――― 苗字先輩 もしかして嫉妬しました?
―――――――――――
メールの内容に思わず笑ってしまう。
「梓くんにはお見通しか…」
梓くんがどんな表情でこのメールを送ったのか、安易に想像できる。何か核心がなきゃこんなメールは送らない。少なくとも、私が今まで頑張ってきた事は無駄じゃなかったのかな?
「…自分に正直に」
「名前!」
「うわ…!梓、何?」
「何じゃないでしょ。ぼーっとしすぎ、もう時間だよ」
あれから5年という月日があっという間に過ぎた。私と梓は今日、長い時間を経てついに結婚する。
「あのね梓」
「何?」
「私、あの時梓に気持ちを伝えられて良かったと思ってる」
「いきなりどうしたの?」
「ちょっと思い出してたんだ、あの頃の私」
梓から送られてきたメール。あの後、ここで違うと言ってしまえば全てが終わってしまう気がして、正直に気持ちを伝えた。
でもそのメールの返信はこなくて、失恋決定だなんて思っていたら後ろから不意に抱きしめられた。
「苗字先輩!」
「あ、梓くん!?」
「先輩、あのメール嘘じゃないですよね?」
「…うん。あれが私の気持ち」
「良かった。僕と同じ気持ちで」
「え?」
梓くんの方に向き直れば、いつもの自信で満ち溢れた梓くんの姿。
「苗字先輩。僕は先輩が好きです。付き合ってもらえますか?」
そう、はっきりと告げられた言葉。
「…はいっ!」
晴れて恋人同士になれた私達。あれから些細な事で喧嘩したり別れそうになったり、それでも2人で星を眺めればすぐに仲直りが出来た。
「そんな事もあったね…。ほら、行こう」
「うん!」
梓の手を取り控室を出る。
前まで嫉妬していたはずの星空に今はたくさんの感謝している。だって、星は私達を巡り逢わせてくれたのだから。
← top →
|