一瞬の輝き | ナノ


ありきたりなラブソング 土萌




デート帰り、私と羊君はバスの一番後ろの席でさっき見た恋愛映画について語っていた。

「やっぱラストが良かったな!」
「うん、僕も少しうるっとした。」
「わかるわかる、私も私も!」
「名前はうるっとどころか号泣してたじゃない。」
「うるさーい!てゆーかなんで見てるのさ、馬鹿!」
「あはは、ごめんごめん。」

羊君は心のこもってないような謝罪をすると、でもね、とおもむろにポケットを探ってかなり使い込んでるウォークマンを取り出した。

「僕は主題歌が一番好き。」
「それにはいってるの?」
「はいってるよ。」
「聞きたい!歌詞までちゃんと聞けてなかったし。」
「うん、聞こう。」

片方ずつイヤホンを耳にはめる。なんだか恋人っぽい。そんなことを考えながら一人で照れていると左耳からゆったりとしたメロディーが流れてくる。

「音、大きくない?」
「大丈夫だよ。」

映画館ではちゃんと聞けなかったから歌詞に注目して聞いてみる。愛してるとか君を守るとかありがちな言葉ばかりの歌詞だけど、何故か心に響く男性目線の彼女を大切に思うラブソング。私は羊君の右肩に頭をあずけながら曲を聞いた。そして曲が終わる頃には星月学園前のバス停に着いていた。

「寮まで送るよ。」
「ありがとう。」

自然と繋がれる手。自然と遠回りに歩く道。この感じがすごく愛しい。もうすぐ寮に着くなんて寂しくて、羊君の右手をきゅっと強く握った瞬間、羊君はそっと口を開き、歌を歌いだす。

「あ、その歌…。」

あの映画の主題歌だ。歌詞の君と言うところを名前に変えて。決して上手とは言えないけど、さっき聞いたときよりずっとずっと私の心に響いた。ああ、明日からまた学校だなんて。ずっとこの時間が続けばいいのに。

「どうだった?」
「嬉しかったよ。すごく。」

そんな私の願いは叶うわけもなく、一番のサビを歌い終えたところで寮に着いてしまった。けどまだ手は繋がれたまま。

「今日は楽しかった。」
「僕もだよ。」
「寮に着いたらちゃんとメールしてよ?心配だから。」
「わかってるよ。名前も部屋に着いたらメールしてよ?心配だから。」
「ふふっ、わかったよ。」
「それじゃあまた明日ね。」
「うん。また明日。」

羊君は私の唇に軽いキスを落とすと私に背をむけて歩き出す。その後ろ姿が見えなくなるまで見送った私は、今日撮ったプリクラを眺めながらあの歌を曖昧に口ずさむ。

明日、二人きりになれたらまた羊君に歌ってもらおう。そんなことを考えながら私は軽くニヤニヤしながら寮の中に入っていった。








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