俺が良かったのに 不知火
遠距離なんて関係ないと思ってた。お互いが強く想い合っているから。でも名前は電話するたび寂しいと泣いた。だから、離れて行ったのは名前だろって喧嘩になって別れた。俺は本当に俺を想ってくれていた名前から逃げ出したんだ。名前を失った俺は寂しさから逃れるために女を取っ替え引っ換えした。そして、気づいたらこんな格好でこんな所ににいる。
距離を離したのは名前。 心を突き放したのは俺。 それが五年前の今日。
「一樹っ!」 「あ、名前…。」 「おめでとう。」 「ああ、ありがとう。」
もしかしたら俺と別れたことを名前が後悔するんじゃないか、あの頃みたいに戻れるんじゃないかと思って、わざと名前を呼んだ。俺が名前を突き放したくせに。
なのに。
「まさか私まで呼ばれるなんて…。」 「まさか本当に来るとはな!」 「なにそれ〜!」
不器用だった名前が、化粧もうまくなって五年前よりもっと綺麗になった。けど、髪の毛の先をいじる癖とか笑った顔とかそのとき頬に出来るえくぼとか内面から出してる雰囲気とか、あの頃と全く変わらなくて。なんかこう、心臓の辺りがキュッと締め付けられた気がした。名前を呼んで後悔したのは俺だ。理由はわかってる。俺は別れてからもずっと…今も……。
「名前は?身体大丈夫か?」 「うん、ありがとう。」
パーティードレスの中で大きく膨らんだ腹部。手には酒じゃなくオレンジジュース。そして左手の薬指に小さく光るソレ。
送ったのは俺じゃない。
「一樹もあいさつして!」
名前より少し高い、俺を呼ぶ声のする方を向けば名前と面影を重ねて愛してきた女。左手の薬指に光るソレ。
送ったのは俺だ。
「ほら、奥さん呼んでるよ!」 「ああ。じゃあ、な。」 「うん。お幸せに!」
返事なんてしない。俺は名前とじゃなきゃ幸せになれないから。お前も幸せにな、なんて絶対に言わない。俺以外の男と幸せになって欲しくないから。何もないかのように俺に向かって左手を振る名前。ソレを見るのが辛くて俺は唇を噛み締めた。
その指を奪うのは、
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