冷めたから温めた 水嶋
0609
「お邪魔します。」
「どうぞ。」
久しぶりに入る郁の部屋。郁のにおいでいっぱいで呼吸をするだけでドキドキする。そんな私の緊張を知ってか知らずか、郁は靴を脱ぐ私のほっぺにキスを落とす。
「郁、誕生日おめでとう。」
「ありがとう。」
コーヒーでいい?と私に訪ねながらキッチンに入って行く郁。私もうんと返事を郁に着いていく。
「あれ?手伝わなくていいよ。リビング入ってて。」
「あのさ、花瓶とかない?」
「あるけど…?」
綺麗に片付いた部屋の片隅にひっそりと飾られた有李さんの写真。私はその側に買ってきた花を飾って手を合わせる。
“お誕生日おめでとうございます”って言うのはおかしいのかな?でも有李さんも今日が誕生日だから、ささやかな気持ち。
「…ありがとう。」
「ねえ郁。私ね、今日郁に会うのが少し怖かったの。」
そう言うと郁は目を細めて笑った。少し困ったように、泣きそうに。
「まだ年を重ねるのが怖い?」
「少しだけ。でも名前が祝ってくれるから誕生日も好きになれそうだよ。」
「そっか…。」
そのまま両腕を広げるとすがるように抱きついてくる郁。少し体が震えているから優しく背中を擦ってあげる。
「郁、生まれてくれてありがとう。ずっとずっと大好きよ。」
「…うん。」
郁は辛いかもしれない。でも誕生日は郁が生まれたことに感謝する日だから、私は幾つになっても郁におめでとうって言いたいの。
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