君には言えない秘密 東月
「名前ちゃん!ほら見て見て!」 「月ちゃん、あんまりはしゃぐと転んじゃうよー?」
月ちゃんが指差した先には可愛らしい簪がたくさん並べられたお店。今日はお互い何の用も無かったから、久しぶりに街に行こうと2人で来た。
「あ、あそこの雑貨屋さんも可愛いね!」 「行ってみる?」 「うん!」
次に入ったお店は日用品から小物まで、幅広く取り揃えた所。月ちゃんは目にする物全てが可愛いらしく、ずっと可愛いしか言ってない。
「あっ、これ錫也にあげたら喜びそう!」 「っ…!」
急に出てきた名前に驚いて、私は持っていた小物を危うく落とすところだった。
「ね、名前ちゃんはどう思う?」 「…きっと喜ぶと思うよ」
精一杯の作り笑顔でそう答えると、月ちゃんは足早にレジへ。私は月ちゃんが好き。でもだからこそ言えない事もある訳で…。悶々としながらもカフェで休暇して私達は他愛のない話しをしながら星月学園に帰った。
「あれ?錫也?」 「…本当だ」 「私、ちょっと行ってくるね!」 「あっ、月ちゃん!」
バスから降りて寮へ行こうとした時、月ちゃんはいち早く錫也を見つけて行ってしまった。月ちゃんは錫也が好きだから、それは仕方ないと思う。でも錫也は−−…
「錫也!」 「あぁ、月子か。今帰り?」 「うん!あのね、錫也にプレゼントがあるんだ〜」 「プレゼント?俺に?」 「そう!……はい、これ!」
頬を少し赤らめて数時間前に雑貨屋で購入した物を渡した。そして錫也は当然受け取る“幼なじみ”として。
「ありがとな。大事に使うよ」 「どう致しまして!」 「そういえば、月子1人か?名前と行ってたんじゃ…」 「あ!置いてきちゃった…」 「何やってるんだよ、まったく…」 「だ、だって〜」
そろそろ行かなきゃ2人で私を探しに来るかな?でも、何となく2人一緒の光景を見たくなくて月ちゃんにメールして先に寮に戻った。
「すーずや」 「名前、待たせてごめんな」 「そんな待ってないから大丈夫」
久しぶりに2人で星が見たくなって、屋上庭園に錫也を呼び出した。この事、月ちゃんが知ったら悲しむかな。
「久しぶりの錫也だ…」 「何言ってるんだよ、毎日会ってるだろ?」 「そうじゃなくて。2人きりで会えたの、久しぶり」 「そう、だな」
そう言って錫也は後ろからぎゅっと抱きしめてくれる。月ちゃんに言えない、私の秘密。それは私と錫也が付き合っている事。
「錫也、来週デートしよ」 「別に構わないけど、名前から誘ってくるなんて珍しいな」 「たまにはいいかなって」 「…じゃあ来週、名前は俺の物な」
優しく口づけて錫也は笑う。月ちゃんに言えなくて心苦しい時もあるけど、私は今幸せならそれでいいと思った。
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