一瞬の輝き | ナノ


そっと眼鏡を外す瞬間 犬飼




なんだか今日は隆文の様子が変だ。やけにボーッとしていて話し方もなんだかぎこちない。なんか変だよって言ったら、変なのはお前の顔だろって流された。

それに一緒に帰るときはいつも手を繋いでくれるのに、今日の私の手は行くあてがない。




「名前…あ…あの、さ……きっ………」

「き?」

「き…弓道部入らね?」

「入らないよ。」

「はは……だよな〜。」




やっぱり変な隆文。隆文がそんなんだと私もそわそわしてくる。別れようって言われるんじゃないかとか、別れようって言われるんじゃないかとか、別れようって言われるんじゃないかって変な不安ばかりが募る。




「じゃなくて……き…」




突然、なにかを決心したみたいに足を止めてわたしを見据える隆文。

“嫌いになった”かな。私、隆文に嫌われちゃったのかな。別れたくないって言いたいけど言葉が喉の奥でつっかえて、私はただ地面を見つめていることしかできなかった。




「き………」

「…………。」

「す、していいか?」

「…………ん?なんて?」




よく聞こえなかった。よく聞こえなかったけど、今すごいことを言われたような…。




「だあああっ!もっかい言わせんのかよ!ちゃんと聞いとけって!」

「ごっ、ごめんね!」

「あと一回しか言わねーぞ。」

「う、うん。」

「…キス、していいですか?」

「……………ええええっ!?」

「いいいい言っとくけど、お前にきょきょ拒否権なんてねーからな!」




隆文、顔真っ赤。きっと私も赤いけど。とにかくとにかく、隆文が私にゆっくり近づいてきて私の肩に手を置く。力が入ってて少し痛い。けど今はそんなことどうでもよくて。




「い…いくぞ。」

「ん…………。」




隆文の顔がゆっくり近づいてくる。心臓がドキドキうるさい。隆文に聞こえてないだろうか。あともう少しで唇が触れる。…そう思ったときだ。

―――――コツン。




「あっ。」

「え?」




隆文の眼鏡が私の鼻に当たる。眼鏡と眼鏡がぶつかるとかじゃなくて。だって私、眼鏡してないし。




「……わり。」

「ううん。」




そう言って隆文は眼鏡を外した。付き合い始めて二ヶ月くらい経つけど眼鏡をかけてない隆文は初めて見たかもしれない。




「じゃ…じゃあもう一回。」

「う…うん。」




次こそ本番。今度は二人で手を握りあって。私は深呼吸して目を閉じる。吐息が近い。




隆文と私の距離。

10センチ…8センチ…6センチ…5センチ…4センチ…3センチ………。

2センチ…………

1センチ………

ぜろ。






そっと眼鏡を外す瞬間

(やったな!犬飼!)
(げ、白鳥見てたのか!?)
(俺のアドバイスのおかげだな!)
(僕、ドキドキしちゃいました〜)






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