君に触れたがる手 土萌
※暗、病んでます。
「いやぁぁぁああああ!」
「名前…?」
キッチンからパリンと乾いた音がした刹那、名前のヒステリックな叫び声。慌ててキッチンに向かうとそこには指からは血を流し、目からは涙を流す彼女の姿があった。
「名前、大丈夫?」
「羊くん……。」
早く手当てをしなければと彼女の手を掴む。しかしその手はパシッと音をたてて突き放され彼女はさらに涙を流す。
「ごめんね、ごめんね羊くん…。羊くんの大事なカップ割っちゃったの。ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね…」
「大丈夫だから、手を見せて?」
「駄目、直さなきゃ!だって名前のこと嫌いになるでしょ!嫌だよ!今すぐ直すから…嫌いにならないで………。」
彼女は狂っている。ヤンデレ、ってやつなのか。普通にしていれば、大人しくて真面目で僕を支えてくれるいい彼女なのに。
「…ただいま。」
「羊くん、お帰りなさい。」
「………はあ。」
「何かあったの?」
「うん、仕事でね。父さんとちょっと。」
「そっか…。」
「お前の変わりなんかいくらでもいるって言われちゃったよ。」
「だったら、」
ボソッと呟いた彼女の目の色が変わった。何かに捕らわれたようにキッチンにむかい、瞬きもせずに戻ってくる。その手には…包丁。
「羊くんが必要なくなったら名前が殺してあげるね。」
満面の笑みで降り下ろされた包丁は、僕の顔すれすれを通ってサクッと静かに音をたてて壁に刺さる。…久々に彼女が笑った。
「……ありがとう。」
僕は彼女を抱き締めてキスを落とす。そしてそのまま狭く短い廊下に押し倒して彼女の服に手をかける。
ああ、そうか。一番狂っているのは他でもない、こんな彼女が好きすぎて手放すことが出来ない……僕じゃないか。
(いっそこのまま二人で。)
君に触れたがる手
thanks 確かに恋だった
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