ずるいから好きです 金久保
「あ、片寄ってる〜。」
「あはは、でも食べるのに支障は無いからいいじゃない。」
「大事だよ、見た目!」
昼休み。教室で誉とお弁当を食べる。インターハイが近いからって最近は昼休みにも練習をしていた誉だけど、そろそろ名前が寂しがるからって今日は一緒にお昼を食べようと言ってくれた。
「ほら、僕の卵焼きあげるからふてくされないの。」
「わーい!」
久々に誉と過ごすゆったりとした昼休み。私は甘い甘い誉の卵焼きと共に幸せを噛みしめる。そのときだ。
「部長!」
「あ、夜久さん。」
出たよ、夜久月子!私が誉とウフフワハハしてるときに限って現れる女。ルックスもそれなりに良くて生徒会までやってて学年関係なく知り合いがいて。私の大っ嫌いなヤツ。
「弓道場の鍵を部長が持ってるって聞いたんですけど…」
「ああ、ごめんね。はい。」
「ありがとうございます。それと今日の練習なんですけど…」
別に仕方ないのはわかってるよ?けど一日に何回も来る必要あります?質問があるならまとめて聞けばいいものを…。あーあー、顔近くないかい?ちょいちょい、私の誉ちゃんだよ?顔近くないかい?クラスのやつらはしっかりしてるとか言うけど、女の私からしたら幼なじみやら部活仲間やら先生たちやら生徒会役員やら色んな男に媚びてるぶりっ子女にしか見えませんからあああああああああああああ!(早口)
「ありがとうございました。」
「いいえ。じゃあ、また部活で。」
誉に嫌われたくないから今まで我慢してたけど実は限界だったりする。今も我慢するつもりだったけどやっぱり無理みたい。
「ねえ、誉。」
「なに?」
「もう夜久さんに近づかないで。」
「急にどうしたの?」
「もう夜久さんと話さないで。」
「部活の後輩だし、こればっかりは仕方ないよ。」
「……なんで」
「名前?」
「なんでわかってくれないの?夏休みに入ったら、夜久さんは私よりも誉と一緒にいる時間が増える。めんどくさい女かもしれない、ウザいかもしれない。でも誉は私の彼氏なのに!私…誉のこと信用してない訳じゃないけど不安なの!……もう嫌だよ。誉と夜久さんが一緒にいるの見ていられない。あの子より私の方が誉のことわかってるし私の方が誉のこと好きなのに…。」
大声を出してしまった。今にも泣き出したい気分だ。きっと顔も真っ赤だ。自分の話の内容ががだいぶズレてる気もしたし、クラスメイトの視線が私に集中してるのもわかった。でもそんなの関係ない。いま言わないといつまでも溜め込んでどうにも出来ない気がしたから。
そんな私を見て口をポカンと開けて目をぱちくりさせる誉。嫌われちゃったかな?箸で摘まんでいた唐揚げが床にポトリと落ちた瞬間、誉はプッと吹き出して笑った。
「ちょ、なんで笑うの!?」
「ごめんごめん。名前があまりにもかわいい顔でかわいいこと言うからつい。」
「は!?」
そう言って誉は箸を置いて私の顎を軽く引っ張り、顔をのぞきこむ。
「本当にごめんね。気づけなくて。名前がそんな思いしてるなんて考えてなかった。」
「ほ、ま…」
「僕のこと、嫌いになった?」
「……なるわけないじゃん。」
「けどやっぱり、夜久さんのことは仕方ない。なるべくまとめて連絡とるように言っておくけど。」
「……うん。」
「大丈夫だよ。僕が世界で一番大切で大好きなのは名前だけだから。」
「……………なんかずるい。」
「ふふっ。なんのことかな?」
そう言って誉はリップノイズをたてて私の唇を一瞬だけ塞ぐ。誉の卵焼きなんかより、ずっとずっと甘い瞬間。そして…
「ふぅ〜〜〜〜〜〜♪」
クラスメイトの野次。私たちはこの出来事を卒業するまでイジられることになる。
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