好きな子ほどなんとやら 七海
「おーい苗字、飴ちゃんいるか?」
「うん!ありがとう!」
「うっわ、コイツ5個もとりやがった!袋ごと渡すんじゃなかった…。」
「てへぺろ☆」
私、粟田、梨本、橘、柿野、柑子くん、東月くん、月子、そして哉太。いつものメンバーで過ごす休み時間。私は梨本にもらった飴を1つ口に放り込んで舌の上で転がす。
「お前、そんなに食ったらまーたブクブク太るぞ。」
「は?もっかい言ってみろや!」
「そんなに食ったらブクブクブクブクブクブク太るぞ、今でもデブでブスなのに。」
「ちょい、体育館裏来いや!」
私と哉太は付き合いだして3ヶ月。けど、私達の関係は付き合う前と変わらない。姉弟みたいな、って言うより兄弟みたいな。むしろ、付き合う前より悪化しているくらいで、大人の階段を上るどころか、手を繋いだこともなく、大人の階段を降りて行く状態。
「かーなーたーくん?」
「ぎゃああああああああああ!」
こうやって哉太が私に憎まれ口のようなものを叩くのも、本気じゃないってわかってる。けど、さすがに不安になる。愛されてるって自覚が欲しい。月子と東月くんみたいにイチャイチャしたいし、“俺の女に触るな”とか“かわいい”的なことも言われてみたい。“好きだ”って言われたい。
「はぁ…はぁ……。」
そんなことを考えながら走っていると、本当に体育館裏まで哉太を追いかけまわしていた。お互い息もあがっているし、哉太をこれ以上走らせるのは危ないかもしれない。
「哉太くーん?ごめんなさいは?」
「へっ、誰が謝るかよ!」
「あ゙?」
「ひいぃっ、すんません!」
「名前様。」
「申し訳ありません名前様!」
「ジュース。」
「奢ります!奢ります!」
「名前様は太ってる?」
「太ってませんんんん!」
「じゃあどうなの?」
「スレンダーです、とっても!」
「じゃあ…かわいい?」
「かわいいです、はい!」
「だったら……」
「……え…名前?」
さっきまでふざけて脅えるような顔をしていた哉太が急に不安そうな顔をする。どうしたんだろう、そう思ったとき、頬に温かいものが流れた。
「泣いてる、のか…?」
“かわいい”って無理矢理言わせた自分が虚しかった。心配そうに哉太が私の顔を覗きこんだ瞬間、私の中で何かが音をたてて崩れ落ちて、哉太に対する不満とか不安が込み上げてくる。
そして私は気がつくと…哉太を突き飛ばしてしまっていた。
「わっ…、名前?」
「なんで…なんで哉太は私と付き合ってるの?なんで告白なんかしてきたの?」
「え………」
「私、一人で盛り上がってたの?私なんかどうせデブだしブスだよ。でも私だって女の子なの。私は本気で哉太のこと好きなのに、哉太は私のことからかってたの?だったら…だったら別れてよ。私のこと、今ここでフってよ!」
トマレトマレトマレトマレ。いくら心でそう思っても、涙と決して言いたくない、思ってもいない言葉を紡ぐ口は止まらない。
「…………。」
「なんか言っ…て、よ…。」
俯いた顔をあげた瞬間、私は言葉を失った。哉太が…泣いていたから。
「…嫌だ。」
「かな、」
「ぜってー別れねーから!」
そう言って哉太は私の手をひいて、不器用に私を抱き締めた。
「わっ…!か、哉太?」
「俺、名前のこと…好き、だから。マジで。」
「え…」
「名前が俺の彼女になったんだって思ったら…好きだって自覚したときより、告白したときより、どんどんお前のこと好きになって…好きになればなるほど……お前のこと傷つけてた。」
「……………。」
「好きだから…傷つけちまう。」
哉太は震える声でポツリポツリと声を絞りだし、私の肩を濡らす。それとは対称的に、私の涙はどんどん乾いて心がポッとする。
「本当に……ごめん…。」
「もういいよ…。ありがとう。」
ぐしゃぐしゃな顔で私を見る哉太。ニッと笑ってやると哉太もフニャって笑った。そして、
「傷つけてごめん。……愛してる。」
って私の唇を奪ったの。
好きな子ほどなんとやら。
(好きな子いじめるとか…) (小学生かよ、お前!) (うっせーぞお前ら!!)
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