夢よりも甘い現実を 天羽
翼は私の肩から抱きつくようにして、私はその手をギュッと握って二人でプラプラ学校の廊下を歩く。
「天羽と苗字ってさ、相変わらず仲いいよな〜。」
「ラブラブすぎ!羨ましい!」
「朝から見せつけてんじゃねーよ!」
「ぬはは!いいだろ!」
クラスメイトからのヤジを受けながら、それでも私達は決して離れない。だって寒いから。それにもっと翼とイチャイチャしていたいし。
「翼〜。」
「なんだ?」
「だーいすき!」
「俺は愛してるぞ!」
そう言って翼は私ををくるりと振り返らせ、ほっぺにキスをする。チュッとリップ音をたてて。朝から幸せだ。………と、思ったのも束の間。
「こら!お前ら!」
「「………うわ。」」
「学校で何をしている!」
生徒指導部長の弥田だ。進級間近のこの時期、特にうるさくなるとぬいぬい先輩に聞いていたからなるべく接触しないようにしてきたのだが。
「もうすぐ学年末テストだぞ?そんなベタベタしてる暇があるなら少しは勉強しなさい!」
朝からネチネチネチネチうるさいなー。別に私達が何しててもアンタには関係ないでしょ。あ、もしかして奥さんとうまくいってないとか。あー、長い。いつ終わるんだろう。
なんて考えているとふと、この光景に見覚えがある気がした。あれ、これって……
「あの…弥田先生……」
「はい?」
「ちょっと相談が…」
「わかりました。君たちはそこで少し待ってなさい。」
そこに陽日先生が入ってきて少し休憩タイム。翼はかなり不貞腐れたように口をとがらせている。
「翼、」
「なんだ?」
「この夢見たかも……。」
「怒られる夢?」
「うん。なんて言うんだっけ?こういうこと。」
「正夢、じゃないか?」
「そうそう、それ。」
「そうなのか。」
「うん。夢ではこのあと、翼が私の手を引っ張って一緒に逃げたの。」
私の手を引く翼、かっこよかったな。なんてニヤニヤしていると再び弥田の登場。翼は何か考えこんでいるようだ。
「話を続けるが…」
弥田が話に戻ろうとした瞬間、翼が私の顎を持ち上げて私の唇に自分のソレを押し付ける。しかも……大人なヤーツ。
「あ、天羽!」
「んっ…、翼!」
「ぬははははは〜」
普段は無表情の弥田もこれにはびっくりしたようだ。今まで見たことない面白い顔をしている。
「弥田先生…俺、名前のこと好きで好きで大好きで愛してるから。いつ、どんな場所でも…名前のこと離したくないです!ごめんなさい、ぬはは!」
翼は余裕顔で笑い私の手を引き、走り出す。真っ赤な顔で“天羽〜!”と叫ぶ弥田が見えて後からめんどくさそうだと思ったけど、そんなの今はどうでもいい。翼だけを見ていたい。
翼は発明以外でも私の想像を越えるから、どんどん好きになる。いつも夢中にさせられてばかりの自分が悔しくて、私は走るスピードを少し上げた。
(先生の目の前でキス!)
夢よりも甘い現実を
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