一瞬の輝き | ナノ


お願い事は 七海







3月上旬。春先とは言えまだまだ肌寒い日が続いていてマフラーと手袋が手放せない。隣にいる彼も同じなのか、ポケットに手を入れてマフラーに顔を埋めていた。



「う〜…さみぃ」

「寒いね〜」

「手袋してるだけまだいいだろ」

「しなきゃ手が痛くなるもん」



さっきからずっとこの調子。この寒さに文句を言ったり哉太が私の手袋を奪おうとしてきたり。でもそんな何気ない時間がもうすぐ終わりを告げる。



「本当に、もう卒業なんだね」

「…そーだな」



たくさんの蕾が膨らんでいる桜の木。春になれば満開の桜が咲く。でも今年は見られない。



「今からそんなんじゃ卒業式ボロ泣きだな」

「う、うるさいな!そうゆう哉太だって絶対泣くんだから」

「ばーか。俺は名前みたいに泣かねーよ!」



軽く頭を叩かれる。こうしてじゃれ合う事も無くなるんだ。哉太と私は別々の大学に進む。だからこうして毎日顔を合わせたり楽しかった出来事を話たり、もう簡単にはできない。

そんな事ばかり考えれば私はいつの間にか涙を流してた。



「…な、なに泣いてんだよ?」

「なっ、泣いてないよ!」

「思いっきり泣いてんじゃねーか!」

「違うっ!」

「ったく、意地っ張りな奴」



ぶっきらぼうにそう言うと急に腕を引っ張られる。あまりにも一瞬の出来事すぎて何が起こったのかわからなかったけど、すぐに哉太に抱きしめられてるんだとわかった。



「…哉太?」

「…なんだよ」

「ありがとう」



本当はそんな事言いたいんじゃない。感謝の気持ちより言いたい事があるんだ。



「哉太に、1つだけお願いがあるの」

「お願い?」

「うん。…卒業しても、私の隣に居てくれませんか?」



お願いと称した一種の告白。哉太の顔はよく見えなかったけどきっと驚いたに違いない。



「…仕方ないから居てやるよ」

「本当に…?」

「あぁ。名前は俺が居なきゃ寂しくて死んじまいそーだからな」

「何よそれ」

「だって事実だろ?」



悔しいけどその通りだ。この先哉太が居ない生活なんて考えただけで憂鬱だもん。



「つか、そろそろ行かなきゃ錫也に説教されちまう」

「すっかり忘れてた」

「ほら、行くぞ!」



少し強引に取られた手。卒業しても変わらずこの手を繋げていれたらいいな。














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