16:動き出す歯車
「葵ちゃん」
「あ、水嶋先生」
謙ちゃん達と楽しい昼休みを過ごした後、教室には戻らないで屋上でぼんやりしていた。また龍とかに怒られちゃうかな?
「留学、決めたんだって?」
「直ちゃん先生に聞いたんですか?」
「まぁね。あの人、嬉しそうにしてたから」
「直ちゃん先生らしいな〜」
直ちゃん先生が喜ぶ姿なんて、簡単に想像ついちゃうから笑っちゃう。
「なんで、留学しようって決めたの?」
「最初はここで過ごす時間は楽しくて、つきちゃん達と離れたくないって思ったけど…」
それと同時に自分の世界も広げてみたいなとも思った。不安がない訳じゃないし、勿論皆と離れるのだって寂しくない訳じゃない。でもせっかくのチャンスを不意にしたくないのも本音だった。
「なんにせよ、留学するって決めたからには全力でやりますよ」
「そう。じゃあ保健室も静かになっていいね」
「またまたー。私が居なくて寂しいくせに」
「君が居なくて寂しいと思うのは、僕じゃなくて彼女達でしょ」
「水嶋先生は寂しいと思ってくれないんですか?」
これで全然寂しくない、なんて言われたらショックで立ち直れないなー。水嶋先生って結構ずばずば言うタイプの人だし。
「寂しくなんかないよ。何で僕が寂しいと思わなきゃいけないのさ」
「うわー。やっぱわかってても言われるとグサッとくる」
「わかってるのに聞いてくるのが悪い」
「ちょっとは期待したっていいじゃないですか」
「はいはい」
水嶋先生って、本当意地悪な人だ。でも何だかんだいい教育実習生だったなー。
「水嶋先生」
「なに?」
「来年には水嶋先生居ないと思いますけど、また会う時まで元気で居て下さいね」
そう言うと、水嶋先生は笑って頷いた。