09:空虚な世界

「葵ちゃん!起きてっ!」
「ん゛ー…あと5分…」
「それじゃ遅刻しちゃうよ!」



私が何度揺すり起こそうとしても葵ちゃんはベッドの中でもぞもぞと動くだけで、一向に起き上がろうとはしてくれない。かと言ってこのままだと確実に遅刻しちゃうし…。こうなったら奥の手を使っちゃおう。



「…今日のお昼は錫也のお弁当だよ?」
「っ…!?」



そう耳元で言えば葵ちゃんは勢いよく起きて素早く身支度をし始めた。本当、こうゆう時だけ行動早いんだから。



「つきちゃん行こっ!」



ソファに座ってテレビをしばらく見ていると準備を終えた葵ちゃんが慌ただしく玄関に走って行った。そんなに急がなくてもいいのに、なんて思ったけど時刻はすでにチャイムが鳴る5分前。走っても間に合うかどうかもわからない。



「つきちゃん走って〜ッ!!」
「走ってるよっ!そもそも葵ちゃんが起きないからっ、」
「お小言は聞きたくない!」
「もうっ!!」



葵ちゃんがどんどん先に走って行くのを私は息を切らしながらもただ漠然と見つめていた。同じ女の子なのに何でこんなに差があるんだろう?葵ちゃんは部活に入ってないのに、現役弓道部が体力負けするなんて…。



「つーきーちゃん!!」
「わっ…!」



しょんぼりしながら走っていたせいか、葵ちゃんが私の所に走って戻って来ているのに気づかなかった。



「つきちゃんの事置いてったりしないから、安心して!」
「葵ちゃん…」
「ほら、手出して!」
「手?…こう、かな」
「そっ!レッツゴー!」
「うわっ!!」



葵ちゃんと私の手は強く繋がれて、教室まで一直線。葵ちゃんに引っ張られながらも、全力疾走したおかげでお互いチャイムが鳴ると同時に教室に入る事ができた。



「ま、間に合った〜」
「月子?」
「錫也、おはよう」
「おはよう。お前がこんな時間ぎりぎりに来るなんて珍しいな」
「葵ちゃん起こすのに手間取っちゃって…」



そう言うと錫也は「やっぱり葵も哉太と同じだな」なんて笑いながら言った。



「誰と誰が同じだって?」
「あ、哉太」



ちょっと面白くないような顔をした哉太。不意に思った。葵ちゃんっていつからこんなに私達の中に溶け込んだんだろう。まだ知り合って1年ちょっとなのに、今じゃ昔からずっと一緒みたいな関係になってる。



「月子?ぼーっとして、どうかした?」
「え?…ううん、何でもないよ」



この関係って、いつまで続くのかな?もし葵ちゃんに彼氏とかできたら一緒に居られなくなる?



「…嫌かも」
「?月子?」



葵ちゃんはまだ誰にもあげない。例え錫也や哉太にでも、私の葵ちゃんはあげないっ!






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